現代のアメリカが抱える諸問題を、アメリカの憲法の制定まで遡って分析する本書。啓蒙的な内容であることは色々出版されているアメリカ社会の諸相に関する本と変わらないが、憲法の問題から解き起こしていくプロセスは非常に面白かった。アメリカの憲法の成り立ちが、連邦政府の過度の介入を危惧した各州間の「条約機構」であったという見方から出発して、それを現代の社会に当てはめて理解しようとしているというのが、アメリカの司法制度の原点なのだという。複数の国が取り交わした「条約機構」が1つの国をまとめる「憲法」となり、アメリカという国が1つの国家になっていく過程で、南北戦争と連邦裁判所が大きな役割を果たしたという指摘も面白い。逆にいえば、連邦裁判所の判例の積み重ねがなければ、アメリカという国は1つの国家にすら成り得ていないということになる。アメリカ国内に、制度的に国政への参政権をほとんど行使できない人々がいること、アメリカの憲法を「奴隷制の擁護」という観点で読むと民主国家とは全く対極的な国の姿が浮かび上がるという指摘などは、これまでそうした話を読んだ事がなかったので非常に驚かされた。アメリカ本土以外のところにある刑務所で囚人に対する非合法な扱いがまかり通っている理由、民主党の「国民皆保険」の制度がなかなか実現できない理由なども、そういう見方があるのかということで、大変勉強になった。いつも新書は軽く読み飛ばすのだが、本書に限っては、じっくり読まざるを得なかった。(「アメリカが劣化した本当の理由」 コリン・ジョーンズ、新潮新書)