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須賀敦子が歩いた道 A・ジェレヴィーニ 芸術新潮編集部

須賀敦子の作品を読んでいると、もちろん彼女が体験したその時の情景が浮かび上がってくることもあるが、それよりも須賀自身の心象風景の方が強烈で、自分がみてきたローマやミラノの風景と同じものを彼女が見ていたのだろうかという疑問は常に心の中にあった。彼女がみたであろう風景を、須賀について造詣の深い人が写真つきで解説してくれる本書は、願ってもない企画のように思われた。本書自体は、素晴らしい写真、解説、須賀自身の文章によって構成されている。その中で、もっとも印象に残るのはやはりその写真の素晴らしさだ。そこにあるのは、自分自身でかつてみてきたことのある風景であり、建物であり、町のたたずまいなのだが、その素晴らしさは尋常ではない気がする。それは、須賀の文章が添えられているからでもなく、解説文によるものでもない。正に自分のこれまでの見方が表層的だったとしか言いようがない。やはり見る人が見て、見るべきところを知っている人が撮ると、こういうことになるのだという単純なことなのかもしれない。自分は何度もローマにも行き、ミラノにも行き、それで何を見てきたのかと自問し、須賀が文章を通して伝える風景に及ばないどころか、須賀の足跡を追うという制約つきの控えめな写真集にすら及ばないということを思い知らされて、悲しくなってしまった。(「須賀敦子が歩いた道」 アレサンドロ・ジェレヴィーニ 芸術新潮編集部、新潮社)

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