著作権使用料の支払いを巡り、音楽著作権協会と音楽教室が争っていた裁判を思い出す小説。ある音楽著作権団体に勤める主人公の青年が音楽教室に生徒として潜入、裁判に有利な情報を得るよう命じられる。身分を偽り、少年時代の出来事で遠ざかっていたチェロを習うことに。再び弓を弾くことの楽しみを取り戻す2年間。使命をしばし忘れ、診療内科に通う不眠も徐々に改善。曲のイメージを共有する講師とのレッスン、同じ受講生との和やかな交流、発表会など濃密に描かれてゆく。深まる”信頼と絆”のなかを流れるチェロの響き『雨の日の迷路』やバッハの『無伴奏チェロ組曲』、『カノン』『難破』。そして発表会の曲として講師が選んだ『戦慄(わななき)のラブカ』がスパイ映画の音楽と聞き、思わず動揺する主人公。海深く潜行する深海魚ラブカと重ね合わせる心の軌跡。その後の予想外の展開、最後まで目を離せない。終演に安堵して本を閉じ早速、図書館から借りてきたチェロのCD。人の声に一番近い音域で耳に心地よく響くというがそのとおり、余韻に浸り続けている。
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