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「花うた」を聴きながら『スモールワールズ』

2022年01月21日 | 読書

文体も登場人物もテーマも異なる6つの短編からなるこの本は読み手泣かせかもしれない。それぞれの物語の出だしの情景や会話から筋書きをイメージするのに時間がかかる。出て来る一風変わった人物や暮らしぶりも想像しにくい。しかし読み進めていくうちに、そうした景色が世の中の片隅には潜んでいるようもに思えてくる。生きづらい現実や不自由さの中にいる人々に寄り添う「思いやり」や「優しさ」が沁みる。そんな作品集の中でもより異質なのは、兄を殺された妹とその刑で刑務所に服役している加害者との往復書簡で綴る『花うた』。お互いにぎこちなく始まった手紙の交換。天涯孤独となった妹は当然のごとく怒りを滲ませる。しかし幾数年を経て予想外の展開、さらに年月を経て迎えた何という結末か。手紙で始まり、手紙だけで終わる物語。読む側の想像力も大いに試され、そして涙腺緩むこと間違いなし。他の作品もそれぞれ味わいある世界を描いているが一番のお薦めである。

                           



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