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“点の記”を超える平安の時代に『剱岳-線の記』

2021年06月26日 | 読書

 似たようなタイトルの本に『剱岳-点の記』(新田次郎・作)があり、10年ほど前に映画化もされた。今でも百名山の中で最難関と言われる剱岳。明治時代末期の1907年、未踏のこの山へ測量のために登った男たちの物語だ。今のような登山装備や情報も乏しい中、壮絶な苦労の末に山頂に到達した。しかし初登頂と思われた頂きに先人の形跡、古代のものと思われる仏具(錫杖頭と鉄剣)が残されていたのだ。そして山好きのAさんに勧められたこの本、副題として<平安時代の初登頂ミステリーに挑む>とある。遥か昔、誰が最初に登ったのか。いつの時代、どのようなルートで、何の目的で、と著者がその謎を追いかけた記録である。居住する東北から剱岳が位置する富山へ何度も往復、ルートを替えての登頂と山頂周辺の探索。博物館や地元資料館など手がかかりを求め、70冊もの各種文献の解読。隣接する立山をはじめとした山岳信仰・山伏との関わり、各地に飛んで関係者への聞き取りなど、精力的な行動には感服する。そうした2年にも及ぶ調査・研究と実地踏査による推論を重ね、謎の解明に至る。大胆な仮説でもあると思うが時空を超え、点を繋いでたどり着いた労作は“線の記”と名付けるにふさわしい。著者はこう書いている<平安期の日本人は神に会うために、命がけで剱岳に登ったという事実だ。(略)現代の登山者の目的意識からは想像もつかない>。20年近く前のたった一度だけの剱岳登山。あのカニのたてばい・よこばいと呼ばれる絶壁を頑丈な鉄の鎖・ボルトに支えられ、ようやくの思いで山頂を踏んだ記憶が蘇る。今さら遅い気もするが景色や花だけでなく、日本古来の山岳信仰にも目を向けていきたいと思わされた1冊である。(後段の写真は唐松岳から遠望の剱岳)