晴耕雨読、山

菜園・読書・山・写真…雑記

今「生きろ」の言葉、『心』

2013年09月15日 | 読書

人生論かエッセイと思ったが、親友を亡くした青年と著者とのメール交換の体裁をとった小説である。ただ、著者の実体験や想いが相当織り込まれている。なぜ、この青年の悩みや相談にこれほど息子のような慈愛で応えるのか、それは最終章で分かることになるのだが、テレビで見かける抑えの効いた語り口が再現されて読みやすい。作中劇の舞台は東北の沿岸部。漁業・農業の衰退、新興のニュータウンや工場用地への変貌、さらに原発の誘致、まさに今の日本の地方の縮図だ。そこに、あの震災。間もなくの現地に赴いた著者は目の前に広がる光景を<巨大な腹を見せて横たわる死魚のような車。粉々に打ち砕かれた住宅のドア、歪んだ窓枠、畳。根こそぎひっこぬかれた流木。布団、枕、自転車、座布団、ストーブ、机、椅子。もっと目を凝らして見ると、鍋、茶碗、ランドセル、ノート、サンダル、アルバム、ペットボトル、空き缶、コンビニ袋、衣類、振り袖。人が生きていた痕跡という痕跡のすべてがちりじりに引き裂かれ、散乱している>と、かって流された映像以上の表現で引き込む。個人の生と死というテーマに今日的課題、そして著者の父としての痛い想いも覆いかぶさって読ませる本であった。「生きろ」という言葉が今の今、必要な人にぜひ読んでほしい。