東南アジア・ヴァーチャル・トラヴェル

空想旅行、つまり、旅行記や探検記、フィールド・ワーカーの本、歴史本、その他いろいろの感想・紹介・書評です。

小林尚礼,『梅里雪山 十七人の友を探して』,山と渓谷社,

2006-12-27 16:32:21 | 旅行記100冊レヴュー(予定)
1991年、京都大学学士山岳会・中国登山協会・雲南省体育運動委員会の三者合同登山隊が梅里雪山の主峰カワカブ登攀中に遭難。17人全員行方不明となる。

本書は、その遭難現場にでかけた著者の滞在記。
遺体や遺物の収集、現地の村の住人とのトラブル、協力、理解の過程を描いたもの。
(遺体は遭難現場とみられる氷河上から、水平距離4,000m・高度差1,400mを、7年半かけて流下した)

著者はカメラマンでもあり、掲載の写真はすばらしく、植物の垂直分布の多様性が理解できる。
樹林帯限界線が氷河より上部、つまり、樹林帯にくいこく氷河がみられる地域である。
また、河床はサボテンが見られるほどの乾燥気候である。

それ以上に重要なことは、著者の最初の心境が変わり、梅里雪山の高峰群に村人と同じような信仰心をもって対峙していくことだ。
かってによそからきて、東チベットの巡礼の山の頂上征服をめざし、かってに遭難した登山隊に対し、村人は冷淡である。
あるいは、中国登山協会や漢族の組織に対しても冷淡である。
そうした環境のなかで、遺体収拾を続け、著者は村人の信仰を理解する。
(わたし自身としては、どうしてこうまで遺体収拾にこだわるのか、いまいち理解できないのだが……)

村の人と梅里雪山巡礼路を歩き、四季の移り変わりを体験する。
エベレストベースキャンプやアンナプルナ内院のトレッキングと同様、この地域の観光シーズンはモンスーン前とモンスーン後である。つまり春先と秋から初冬である。
著者は、夏の間(つまりモンスーン期)麓の村に滞在し、雨季の東チベットを描写する。
この、雨季、つまり夏の村のようすがいい。
巡礼のカワカブめぐりも、外国人旅行者や漢族の旅行者も、モンスーン期を避けるようだが、夏は村人にとって農耕や牧畜やきのこ(マツタケ)狩の季節である。


最後に、麓の明永村の変化も描かれる。
ご存知のように、この地域は、金沙江(長江)・瀾滄江(メコン川)・怒江(サルウィン川)の3本の大河が収斂する大峡谷地帯で、「三江併流」という名の世界自然遺産に登録された。
遭難当時は、日本への連絡も北京を通さないとだめだったのが、携帯電話が普及する。
また、民宿やホテルができる。
遺体が収容された氷河の下には、遊歩道(?)が建設される。

著者のホームページ
www.k2.dion.ne.jp/~bako/index.html