~ 10月×日 非常に気になることができ、やむなく、また近所の蔦谷書店に大学入試問題集を買いに走る。880円。
入試問題に文章が使われた大学から、「作品使用報告書」というお役所的〝状〟が届くのは、例年3月から5月にかけてのこと。今年は三大学に私の文章が使われた。入試に使われるような、まっすぐなものを書いているつもりはないのに、不名誉なことだ。
… 普段なら、こんなふざけた報告書と入試問題など見ないのだが、今年は長女の大学入試の年でもあるので、とりあえず試しに一つだけ、私の『学問のヒント』(講談社現代新書)から一文を抜いた問題を解いて見ることに。全部で10問もある。
問一の漢字問題は楽々クリア。
問二は、次のような問題だった。
波線部aの意味としてもっとも適切なものを、それぞれ次の①~⑤の中から選びなさい。
a メディア ①空間 ②通信 ③媒体 ④映像 ⑤機械
ううむ。私が「メディア」という言葉を使う場合、通信(②)や映像(④)などを含む媒体(③)または空間(①)という意味に使っている。これはかなり厳格な定義である。同書にも、それは明記しておいた。が、その部分は出題の対象にはなっておらず、受験生は読むことはできない。仮に読んでいたら、この問題は解けないだろう。ということは、この出題者には国語能力が著しく欠けているか、それとも相当の悪意をもった男(たぶん男)だ。 (日垣隆『何でも買ってやろう日誌』) ~
『何でも買ってやろう日誌』の「後書き」に記されたこの文章を、本が発売される前に読んでいた。
購読していた日垣隆氏のメルマガに先に掲載されたからだ。
今でこそ、たくさんのメルマガが発行されているが、十年以上前はまだ普通の習慣ではなかった時代だ。
自分としては、好きな評論家のお一人である日垣隆氏の新しい媒体をいちやはく申し込み、愛読していた。
だから、この文章を読んで興味がわき、かるい気持ちで、「何大学の問題か、教えていただけませんか」とメールを送ったのだった。
もちろん、その前にすぐ調べた。国語科の本棚にある入試問題集を繙いてみた。でも発見できなかったのだ。
大学入試のすべてを網羅する本はさすがにないので、掲載にならない大学だったのだろう、でも問題を見てみたいなあと思った。「読者QAコーナー」があることだし、うまくすればご回答を得られるかもしれない。なにせファンだし。
「いつもガッキィファイター送信いただきありがとうございます。高校で国語を教えている水持と申します。先日の臨時号で、日垣さんの文章が大学入試になった話がありましたので、手元にある入試問題集を捜したのですが、みあたりません。できましたら、出題された大学名をお教えいただけないでしょうか。国語の入試問題のあり方を考えているものとしてぜひ見てみたいのです。お手数ですがおねがいいたします。」
お返事をいただくことができた。
正確には覚えておられないが、大阪なんとか女子短期大学だったということである。
私信なので、全文引用してはいけないのだろうが、
~ お手元にないので(!)、とのことでしたので、そのような次元に合わせてお答えします。 ~
という出だしが印象的だった。
こんなことも自分で調べられずにてっとりばやく質問するなんて、学校の先生ってバカなの? という気持ちが垣間見られる味わい深い返信だ。
興味がないので、もう正確におぼえてないが、名前は知っている大学だという。
「教員なら自分で調べろ」という主旨のご返答とともに、
~ ご自分でお探しください。それもお仕事のうちだと思います。 … 具体的に、どのように(くだらない現状の)大学入試問題の「あり方」を変えるためにいったいどんな改革を個人でおやりになってきたのかすべて教えてくだされば、(もちろん「考え」でなく、あなたの「実績」だけを具体的にお教えいただきたい)私も具体的にお教えします。 ~
というお言葉をいただいた。
「国語の入試問題のあり方を考えているものとして」なんて書いてしまったからいけなかったのだろう。
しょせん、おまえは高校の一教員だよね、何えらそうに「入試のあり方」とか言ってるの? 分を知ったらどうなの、というあったかい助言であろう。