1学年だより「夢の諦め方(2)」
お笑いコンビ「イエローハーツ」甲本と田中は、高3の時にコンビを組み、文化祭のステージで喝采を受けたのをきっかけにプロの芸人を志す。事務所に入り活動しはじめた頃は少しは注目されたが、その後は鳴かず飛ばずのまま10年が経っていた。バイトで生計を立てながら、いつかは……と夢を追いかける二人。「笑軍天下一決定戦」への出場は、最後のチャンスだと考えていた。
~ 1月15日 田中へ やっぱりスピード、まだ上げられると思う。スピードを上げた途端に俺が噛み出したから不安に思ったんだろう? 大丈夫だ。前のM1の予選みたいなミスはしない。あの時とは稽古量が違う。まだ時間もある。
1月16日 甲本へ 今日のネタ合わせ。50回以上合わせて、すんなりできたのが10回。危険だと思います。やっぱりスピードが早すぎて、全体が伝わりづらくなるんじゃないかなって不安です。……足さないやつでネタを固めて練習したほうがいいと思います。 ~
芸人さんたちが実際に練習する風景を、たまにテレビで見ることがある。
本番のネタだけを見てると、「どちらかが言い間違えて、機転のきいたアドリブでそれをさらに笑いに変える……」みたいなときもあるが、実は、すべて計算された練習の結果である方が多い。
放送作家の鈴木おさむ氏の小説から、そんなリアルさがよく伝わる。
後輩に抜かされて嫉妬を感じたり、卑屈になったり、コンテストに出ることへの不安やら、ネタがかけないことへの焦りも、ひりひりと伝わってくる。
「お笑い」に限らない。どんな分野でも、どんな仕事でも、本気で取り組んでいれば、必ず壁にぶつかる。ぶつかって、もがいて、時には撤退しなければならないこともある。
人は、全ての分野において、等しく才能を持っていることはないからだ。
しかし、そのことについて才能があるかないのかは、やってみないとわからない。
~ 4月20日 田中へ 10年以上がんばったのに、俺には芸人としての才能もなかった。だけど、一つ才能あったんだよ。夢を諦めることができたんだよ。そうなんだよ。夢を諦めることってすげーんだよ。夢を諦める才能。これってすげーことだよな?
やろうと思ってる人は一杯いて、それを実行に移す人はほんの一握り。「やろうと思ってた」と「やる」との間には実は大きな川が流れてる。俺は芸人をやった。「やろうと思った」じゃないもんな。やって駄目だったんだから仕方ないよな。 (鈴木おさむ『芸人交換日記』太田出版) ~
「夢を諦める」には、まず夢を追わなければならない。
「諦める」と口にできるのは、本気で夢を追った者たちだけに与えられる特権なのかもしれない。
「夢を追う」とは、公園でネタを100回通すことだ。
その結果得られた「諦め」は、けっして負けではなく、新たな前進になる。
お笑いコンビ「イエローハーツ」甲本と田中は、高3の時にコンビを組み、文化祭のステージで喝采を受けたのをきっかけにプロの芸人を志す。事務所に入り活動しはじめた頃は少しは注目されたが、その後は鳴かず飛ばずのまま10年が経っていた。バイトで生計を立てながら、いつかは……と夢を追いかける二人。「笑軍天下一決定戦」への出場は、最後のチャンスだと考えていた。
~ 1月15日 田中へ やっぱりスピード、まだ上げられると思う。スピードを上げた途端に俺が噛み出したから不安に思ったんだろう? 大丈夫だ。前のM1の予選みたいなミスはしない。あの時とは稽古量が違う。まだ時間もある。
1月16日 甲本へ 今日のネタ合わせ。50回以上合わせて、すんなりできたのが10回。危険だと思います。やっぱりスピードが早すぎて、全体が伝わりづらくなるんじゃないかなって不安です。……足さないやつでネタを固めて練習したほうがいいと思います。 ~
芸人さんたちが実際に練習する風景を、たまにテレビで見ることがある。
本番のネタだけを見てると、「どちらかが言い間違えて、機転のきいたアドリブでそれをさらに笑いに変える……」みたいなときもあるが、実は、すべて計算された練習の結果である方が多い。
放送作家の鈴木おさむ氏の小説から、そんなリアルさがよく伝わる。
後輩に抜かされて嫉妬を感じたり、卑屈になったり、コンテストに出ることへの不安やら、ネタがかけないことへの焦りも、ひりひりと伝わってくる。
「お笑い」に限らない。どんな分野でも、どんな仕事でも、本気で取り組んでいれば、必ず壁にぶつかる。ぶつかって、もがいて、時には撤退しなければならないこともある。
人は、全ての分野において、等しく才能を持っていることはないからだ。
しかし、そのことについて才能があるかないのかは、やってみないとわからない。
~ 4月20日 田中へ 10年以上がんばったのに、俺には芸人としての才能もなかった。だけど、一つ才能あったんだよ。夢を諦めることができたんだよ。そうなんだよ。夢を諦めることってすげーんだよ。夢を諦める才能。これってすげーことだよな?
やろうと思ってる人は一杯いて、それを実行に移す人はほんの一握り。「やろうと思ってた」と「やる」との間には実は大きな川が流れてる。俺は芸人をやった。「やろうと思った」じゃないもんな。やって駄目だったんだから仕方ないよな。 (鈴木おさむ『芸人交換日記』太田出版) ~
「夢を諦める」には、まず夢を追わなければならない。
「諦める」と口にできるのは、本気で夢を追った者たちだけに与えられる特権なのかもしれない。
「夢を追う」とは、公園でネタを100回通すことだ。
その結果得られた「諦め」は、けっして負けではなく、新たな前進になる。