橘あきら(17歳)が恋に落ちた相手は、バイト先のファミレス店長の近藤(45歳)だった。
「バイト先の」という言い方は正しくないな。
雨に降りこめられた(下人ではなく)女子高生が、「雨宿りしていけば」と言ってくれたファミレス店長に気持ちが奪われたら、その店で働くようになった、と正確には書くべきだ。
陸上競技で鍛えた身体はスタイルがよく、背が高くて美形の彼女は、ただし愛想がない。
近藤も、その愛想のなさから、自分は絶対に嫌われていると思っていた。
そうでなくても、45歳の冴えない中年が、女子高生からよく思われるわけはないと思い、遠慮しながらバイトのシフトを決めたり、言葉を選んで仕事の指示をしたりしていた。
だから、「あたし店長が好きです」という言葉をきいたとき、「人として嫌いなわけではない」という意味だと理解し、「よかったぁ … 、おれてっきり橘さんから嫌われてると思ってたんだよね」と笑顔で答える。
まさか、本気の恋心の告白だとは夢にも思わない。
本当の意味が伝わってからも、信じられない気持ちと、どう対応すべきかというとまどいが頭を支配する。
そうなるだろうなあと思う。
自分なら、どうだろう。女子高生か … 。
もちろん、商売柄そんなことは想像したこともないし、現実には起こりえないし、でももしかして教え子から「先生、じつは … 」と言われたら、どう対応すればいいのか。
年齢差もあるし、同性ではないか。さらに難しい問題が起こってしまうのか。どうする、おれ。
萌え系ラブの一つのバリエーションだと思う。
おっさんの自分だからはまった部分はもちろんあるけど、若い男子が読んでも自己投影できるにちがいない。
たまたま店長は、自分の年齢を中心にしたマイナス要素を意識し、踏み出せずにいる。
じゃ、若かったらすべてはクリアできるのかといえば、そうでもないだろう。
自分なんかがこんなかわいい女子とどうにかなれるはずがない、という思いで、自分から踏み込んでいけない若者ってたくさんいそうだし、自分もそうだった。
大事なのは、見た目とか、いけてるかどうかとか、諸々のスペックとかではなく、実は心の持ちようだ。
若いうちは特に、根拠なき自信でがつがついくくらいでちょうどいいのだけど、そうもいかないからこそ文学が生まれ詩が生まれ音楽が生まれるのだ。
このマンガだけは実写化してほしくない … 。