水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

習慣化(2)

2019年10月29日 | 学年だよりなど
2学年だより「習慣化(2)」


「部活の練習でクタクタになって帰ってきても、
 眠る前に数学の問題を一問だけ解く
 合宿や遠征や大会で家に遅く帰ってきても
 眠る前に英単語5個覚える、歴史の年号を確認する」
 少しでもやっておかないと気持ち悪くて眠れない身体になっている人は、必ず志望校に合格すると桜木理事長は言う。
 定期試験の部活休み期間に、身体を動かしてなくてなんかすっきりしないなという感覚になる人は、けっこういるのではないか。
 外を少し走っておこうとか、寝る前に腹筋だけしようとかなる人が。
 勉強もそれと同じ状態になってはじめて「習慣化」できたという。
 ぎゃくに力の入れ方に波があるタイプは、結果が出にくいという。
昨日は部活が休みだったから、3時間勉強できた、今日は一日ゲームしよう!
 今週は忙しくて勉強が手につかなかったから、土日にすべてやろう!
 こういう感覚の人は結果として、成績が伸びない。
 運動に置き換えれば、みなさんはむしろ完璧に理解できるのではないだろうか。
 みなさんは、4、5年先には、もう就職活動を開始することになる。
「在籍する大学で扱いに差があるなあ」という感覚を抱く日も、きっとあるだろう。
「大学名が大事ではない」「学歴差別はあってはいけない」という人もいるが、現実は甘くない。
 しかし、それはいわれのない「差別」ではない。
 採用する側からすれば、根拠のある観点だ。
 社会人になって日々の業務をつつがなくこなせる能力と、勉強する習慣を持っているかどうかの相関関係がきわめて高いからだ。
 それほど有名でない大学から、誰もがうらやむような就活の結果を手に入れた人は、大学に入ってから地道に努力する体質になれたということだろう。
 特殊な能力や天分を持つ人は、大学を中退しても、大学に行ってなくてさえ、引く手あまただ。
 しかし、自分はそこまでの天分は持たないと思うならば、毎日少しずつ努力することを習慣化しておこう。
 その体質こそが、人生における有効な武器になる。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

習慣化

2019年10月25日 | 学年だよりなど
  2学年だより「習慣化」


 そして、どうせなら少しでも「いい大学」に入りたいと願うのは、当然のことだ。
 「いい」の基準にはいろいろあり、人それぞれの価値観で見方は変わるだろう。 
 いろんな指標で検討すればするほど、結果として偏差値の高さ、つまり「入りにくさ」と「いい」は重なってくる。
 学びたいものがあり、それに見合った大学や学部学科が決められるなら、それが一番だが、はっきりしないときは、少しでも「難しい」大学を目指すのがいい。

 今週号の「モーニング」の「ドラゴン桜2」で、桜木理事長がこう語っていた。 
 東大選抜クラスに在籍する天野君と早瀬さんが、強化合宿を終える。
 合宿が終わった日はどう過ごしたかを二人に問う。
 さすがに疲れて、自宅にもどるとすぐにぐっすり寝ましたという二人に、「そんなことでは東大には受からない」と諭す。
「早瀬、天野、進学校の生徒はなぜ勉強がデキるか、わかるか?」
 桜木理事長が尋ねると、早瀬さんが答える。
「もともと成績のいい子が進学校に集まるから」でしょと。
「集まったところで、勉強をサボればすぐに成績は落ちる。進学校の生徒は、入学してからも、しっかり勉強する。なぜだかわかるか?」
「勉強する環境があるというか、まわりがみんな勉強するから … 」とつぶやく天野くんに、「そのとおりだ」と言う。


 ~ 「進学校の生徒は、なぜ勉強がデキるのか!
 それは、まわりの生徒もみんな勉強するから。みんながやるから、自分もやる。
 この関係性がしっかりできているから、みんなが勉強する。だから成績が上がる。
 その場合、身につけられる最大のスキルは何か。
 それは習慣だ! これこそが最も重要な能力なのだ。」
               三田紀房「ドラゴン桜2」モーニング2019№47号) ~


 大事なのは、「歯を磨くように勉強する」ことだ。そうしないと気持ち悪いレベルになってはじめて、習慣になったという。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

凡人道(2)

2019年10月21日 | 学年だよりなど
2学年だより「凡人道(2)」


 ネットで活躍するインフルエンサーの中には、「大学なんていく必要がない」「オンラインサロンですべて学べる」という人もいる。
 「無一文から年収1億円」を達成するような一発逆転は、現実的にそうそうないからこそ、話題になり、本にもなり、インフルエンサーになれるのだ。
 方法論を学んだからといって、実現できる可能性は低い。
 可能であるなら「とりあえず大学を出る」ことの優位性は、「凡人」にとってはゆるがないだろう。


 ~ 日本の場合、年を取ってから大学に入学してキャリアアップを図るというシステムが社会に組み込まれていないので、高卒のまま社会に出てしまうと、大卒よりも安い給料のまま働き続けなければいけません。
 高卒の平均生涯年収は約2億4000万円ですが、大卒の平均生涯年収は約2億8000万円。その差は4000万円にもなります。高卒の人のほうが大卒の人よりも最低4年は早く働き始めるわけですが、大卒の方が初任給も昇給も額が大きくなるので、最終的に新築の家一軒買えるほどの大きな差になってしまいます。
 実際、スポーツ選手や芸能人を除けば、社会でそれなりのポジションを得ている人のほとんどが大学を卒業しています。ビル・ゲイッやマーク・ザッカーバーグのように大学中退の成功者もいますが、彼らは大学に通いながら事業を立ち上げて成功した、極めて優秀な人たち。凡人が真似するにはリスクが高すぎます。
 大学を退学してオンラインサロン1本に絞るというのは、そういうリスクを背負うということ。オンラインサロンからも成功する人は出てくるとは思いますが、そのように才能と運に恵まれた人はごく一部でしかないでしょう。
 でも、最近はこういうまともな価値観をメディアが取り上げなくなりました。出版業界も斜陽産業になってきたので、どうしてもエッジの利いたタイトルの本しか並ばなくなりますよね。「好きなことして生きていく」とか「学歴はいらない」とかそういう趣旨の過激なものが多い気がします。その結果、みんなが「ビジネスとして情報を売る人たち」の主張を真に受けてしまっている。 (ひろゆき『凡人道 役満狙いしないほうが人生うまくいく』宝島社) ~


 あらゆる情報が簡単に手に入る時代になり、逆に自分にとって本当に役に立つ知識が何か見えにくくなっている。
 「こうであってほしい」「こういうことを言ってほしい」ことを私たちは求める。
 それに合致する情報は、探せばいくらでも見つかる。
 勉強のやる気が出ないときに、「大学に行く意味なんかない」と世の成功者がつぶやいてくれるなら、それが天啓のように思えたりする。
 しかし、それはよくよく考えてみると、目の前の現実から逃げようとする自分を肯定してもらいたいだけなのかもしれない。
 「大卒」という下駄は役に立つという現実は、客観的に存在する。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「こころ」の授業(6)

2019年10月20日 | 国語のお勉強(小説)
六段落

 私はKと並んで足を運ばせながら、彼の口を出る次の言葉を腹の中で暗に待ち受けました。あるいは待ち伏せと言ったほうがまだ適当かもしれません。そのときの私はたといKをだまし打ちにしてもかまわないくらいに思っていたのです。しかし私にも教育相当の良心はありますから、もしだれか私のそばへ来て、おまえは卑怯だと一言ささやいてくれる者があったなら、私はその瞬間に、はっと我にたち返ったかもしれません。もしKがその人であったなら、私はおそらく彼の前に赤面したでしょう。ただKは私をたしなめるにはあまりに正直でした。あまりに単純でした。あまりに人格が善良だったのです。目のくらんだ私は、〈 そこ 〉に敬意を払うことを忘れて、かえってそこにつけ込んだのです。そこを利用して彼を打ち倒そうとしたのです。
 Kはしばらくして、私の名を呼んで私のほうを見ました。今度は私のほうで自然と足を止めました。するとKも止まりました。私はそのときやっとKの目を真向きに見ることができたのです。Kは私より背の高い男でしたから、私はいきおい彼の顔を見上げるようにしなければなりません。私はそうした態度で、狼のごとき心を罪のない羊に向けたのです。
 「もうその話はやめよう。」と彼が言いました。彼の目にも彼の言葉にも変に悲痛なところがありました。私はちょっとあいさつができなかったのです。するとKは、「やめてくれ。」と今度は頼むように言い直しました。私はそのとき彼に向かって〈 残酷な答えを与えた 〉のです。狼がすきをみて羊の咽喉笛へ食らいつくように。
 「やめてくれって、僕が言い出したことじゃない、もともと君のほうから持ち出した話じゃないか。しかし君がやめたければ、やめてもいいが、ただ口の先でやめたってしかたがあるまい。君の心でそれをやめるだけの覚悟がなければ。いったい君は君の平生の主張をどうするつもりなのか。」
 私がこう言ったとき、背の高い彼は自然と私の前に萎縮して小さくなるような感じがしました。彼はいつも話すとおりすこぶる強情な男でしたけれども、一方ではまた人一倍の正直者でしたから、自分の矛盾などをひどく非難される場合には、決して平気でいられないたちだったのです。私は彼の様子を見て〈 ようやく安心しました 〉。すると彼は卒然「覚悟?」とききました。そうして私がまだなんとも答えない先に「覚悟、――覚悟ならないこともない。」とつけ加えました。彼の調子は独り言のようでした。また夢の中の言葉のようでした。
 二人はそれぎり話を切り上げて、小石川の宿のほうに足を向けました。わりあいに風のない暖かな日でしたけれども、なにしろ冬のことですから、公園の中は寂しいものでした。ことに〈 霜に打たれて蒼みを失った杉の木立の茶褐色が、薄黒い空の中に、梢を並べてそびえているのを振り返って見たときは、寒さが背中へかじりついたような心持ちがしました 〉。我々は夕暮れの本郷台を急ぎ足でどしどし通り抜けて、また向こうの丘へ上るべく小石川の谷へ降りたのです。私はそのころになって、ようやく外套の下に体の温かみを感じ出したくらいです。
 急いだためでもありましょうが、我々は帰り道にはほとんど口をききませんでした。うちへ帰って食卓に向かったとき、奥さんはどうして遅くなったのかと尋ねました。私はKに誘われて上野へ行ったと答えました。奥さんはこの寒いのにと言って驚いた様子を見せました。お嬢さんは上野に何があったのかと聞きたがります。私は何もないが、ただ散歩したのだという返事だけしておきました。平生から無口なKは、いつもよりなお黙っていました。奥さんが話しかけても、お嬢さんが笑っても、ろくなあいさつはしませんでした。それから飯を飲み込むようにかき込んで、私がまだ席を立たないうちに、自分の部屋へ引き取りました。

 卒然 … とつぜん
 外套 … コート

Q33「そこ」とは何か。本文の言葉を用いて20字で記せ。
A33 あまりに正直で、単純で、善良なKの人格。

Q34「残酷な答えを与えた」とはどういうことか。(60字以内)
A34 恋愛問題で行き詰まり悲痛な面持ちのKに対して、
   追い打ちをかけるように日頃の主張との矛盾を指摘し
   その態度を批判したこと。

「ようやく安心しました」について
Q35 なぜか。(50字以内)
A35 矛盾を指摘した私の言葉に反論もせず萎縮してしまったKを見て、
   自分が優位に立ったことを感じたから。

Q36 私の中にはどんな不安があったのか、本文の言葉を用いて説明せよ。
A36 Kが実際的な方面にすすむことによって私の利害と衝突すること。

Q37「霜に打たれて蒼みを失った杉の木立の茶褐色が、薄黒い空の中に、梢を並べてそびえているのを振り返って見たときは、寒さが背中へかじりついたような心持ちがしました」という描写はどのような働きをもっているか。
A37 自分がしたことに対する無意識の罪の意識を表し、二人にとっての暗い将来を暗示する。


行 Kの出方を待つ  待ち伏せ・だましうち
   ↓
事 悲痛な様子を発見する 羊のよう
   ↓
心 だめ押しのチャンス!
   ↓
行 「残酷な答え」を与える  狼のように
   ↓
事 萎縮したKを見る
   ↓
心 安心
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

保護者会懇親会

2019年10月19日 | 日々のあれこれ
吹奏楽部保護者会懇親会@川越エルミタージュ

セットリスト

松川先生独奏「いい日旅立ち」「糸」

歌「元気出してよ~セキ薬品テーマ」「糸」「夢先案内人」

 たのしい会をありがとうございました!!
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「こころ」の授業(5)

2019年10月18日 | 国語のお勉強(小説)
 五段落

 私はちょうど〈 他流試合でもする人のようにKを注意して見ていた 〉のです。 私は、私の目、私の心、私の身体、すべて私という名のつくものを五分の隙間もないように用意して、Kに向かったのです。〈 罪のないK 〉は穴だらけというよりむしろ明け放しと評するのが適当なくらいに無用心でした。私は彼自身の手から、彼の保管している要塞の地図を受け取って、彼の目の前でゆっくりそれを眺めることができたも同じでした。
 Kが〈 理想 〉と〈 現実 〉の間に彷徨してふらふらしているのを発見した私は、ただ一打ちで彼を倒すことができるだろうという点にばかり目をつけました。そうしてすぐ彼の虚につけ込んだのです。私は彼に向かって急に厳粛な改まった態度を示し出しました。むろん策略からですが、その態度に相応するくらいな緊張した気分もあったのですから、自分に滑稽だの羞恥だのを感ずる余裕はありませんでした。私はまず「精神的に向上心のない者はばかだ。」と言い放ちました。これは二人で房州を旅行している際、Kが私に向かって使った言葉です。私は彼の使ったとおりを、彼と同じような口調で、再び彼に投げ返したのです。しかし決して復讐ではありません。私は〈 復讐以上に残酷な意味を持っていた 〉ということを自白します。私はその一言でKの前に横たわる恋の行く手をふさごうとしたのです。
 Kは真宗寺に生まれた男でした。しかし彼の傾向は中学時代から決して生家の宗旨に近いものではなかったのです。教義上の区別をよく知らない私が、こんなことを言う資格に乏しいのは承知していますが、私はただ男女に関係した点についてのみ、そう認めていたのです。Kは昔から精進という言葉が好きでした。私はその言葉の中に、禁欲という意味もこもっているのだろうと解釈していました。しかしあとで実際を聞いてみると、それよりもまだ厳重な意味が含まれているので、私は驚きました。道のためにはすべてを犠牲にすべきものだというのが彼の第一信条なのですから、摂欲や禁欲はむろん、たとい欲を離れた恋そのものでも道の妨げになるのです。Kが自活生活をしている時分に、私はよく彼から彼の主張を聞かされたのでした。そのころからお嬢さんを思っていた私は、いきおいどうしても彼に反対しなければならなかったのです。私が反対すると、彼はいつでも気の毒そうな顔をしました。そこには同情よりも侮蔑のほうがよけいに現れていました。
 こういう過去を二人の間に通り抜けてきているのですから、精神的に向上心のない者はばかだという言葉は、Kにとって痛いにちがいなかったのです。しかし前にも言ったとおり、私は〈 この一言 〉で、彼がせっかく積み上げた過去を蹴散らしたつもりではありません。かえって〈 それ 〉を今までどおり積み重ねてゆかせようとしたのです。それが道に達しようが、天に届こうが、私はかまいません。私はただKが急に生活の方向を転換して、私の利害と衝突するのを恐れたのです。要するに私の言葉は単なる利己心の発現でした。
 「精神的に向上心のない者は、ばかだ。」
 私は二度同じ言葉を繰り返しました。そうして、その言葉がKの上にどう影響するかを見つめていました。
 「ばかだ。」とやがてKが答えました。「僕はばかだ。」
 Kはぴたりとそこへ立ち止まったまま動きません。彼は地面の上を見つめています。私は思わずぎょっとしました。私にはKがその刹那に居直り強盗のごとく感ぜられたのです。しかしそれにしては彼の声がいかにも力に乏しいということに気がつきました。私は彼の目づかいを参考にしたかったのですが、彼は最後まで私の顔を見ないのです。そうして、そろそろとまた歩き出しました。

 他流試合 … 流派の異なるものどうしの、威信をかけての争い。※ 道場破り
 要塞 … とりで
 彷徨する … さまよう
 虚につけ込む … 相手の無防備な部分を突破口として攻め入ること
 宗旨 … 信仰する宗派
 精進 … 仏道修行に励むこと
 刹那 … 一瞬 ※65分の1指はじき
 居直り強盗 …窃盗が見つかって開き直り、強盗にかわる


Q25「他流試合でもする人のようにKを注意して見ていた」とは、「私」のどういう状態を表しているか。40字以内で記せ。
A25 Kを自分と敵対する存在と捉え、一部の隙も見せずに様子をうかがっていたということ。

Q26「罪のないK」という表現の働きを説明せよ。
A26 自分の敵対心がKにとって理不尽なものであったとの自覚はあることを読み手にアピールする。

Q27「理想」とあるが、Kにとって、どのように生きることが理想なのか。本文の言葉を用いて20字程度で説明せよ。
A27 道のためにすべてを犠牲にして精進すること。

Q28「現実」とは何か、説明せよ。
A28 お嬢さんへの恋心に内面を支配されていること。

Q29「復讐以上に残酷な意味をもっていた」とあるが具体的にはどんな意図があったのか。20字程度で抜き出して答えよ。
A29 Kの前に横たわる恋の行く手をふさごうとした

「この一言」について、
Q30 どの一言か、抜き出せ。
A30 精神的に向上心のないものはばかだ。

Q31 この一言は「私」のどういう心から発せられたのか。3文字で抜き出せ。
A31 利己心

Q32「それ」とは何か。20字程度で記せ。
A32 自分の信条に従って生きてきたこれまでの生活。


事 無防備なKを発見する
    ↓
心 一打ちで倒すことができる
    ↓
行 「精神的に向上心のないものは馬鹿だ」
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

凡人道

2019年10月17日 | 学年だよりなど
2学年だより「凡人道」


 「合格体験談」を話しに来てくれた先輩たちは、文系・理系の選択や、選択科目の決め方については、こう語っていた。
「苦手な科目・得意な科目で決めていい」「あくまでも好きな科目で選ぼう」「大学に入ってどんな勉強をしたいかで決めよう」「将来の仕事は決まってなくていいし、決める必要もないが、興味のある学部を目指そう」 … 。
 その昔、「将来自分がやりたい仕事を目標にして、そこから逆算して学部・学科を選び、選択科目を決めよう」と言われていた時代もあった。
 しかし、もうそんな時代ではない。
 現時点でみなさんが漠然とイメージする「職業」が、数年後はたして存在するかどうかさえ誰もわからなくなっているからだ。
 就活での人気ランキング上位にあがるような職業、企業でも、近未来の姿はたしかではない。
 逆に、十年前に想像もできなかった「仕事」で生計を成り立たせている人もいる。


~ そもそも仕事って、誰かがやりたくないことを代わりにやって、お金をもらうという場合が多いです。
 それに、「やりたいこと」や「天職」なんて、自分ではなかなかわからない。すごくやりたかった職業でも、実際就いてみたり、しばらくやってみたりすると、なんだか思っていたのと違うな……なんて、よくあることです。
 プログラマーなんかも、働くことが嫌いな人のほうが向いているんですね。プログラムが大好きな人は、自分でアルゴリズムを考え始めちゃったり、いかに早くするかばかり検討することに時間や労力をかけてしまうんです。でも、プログラムは、「自分の手をいかにかけずに、コンピューターにやらせるか」を考えるものであって、すでに作られたものをコピペして使っちゃうような人のほうが仕事が早いんです。
 だから、「やりたいこと」と意気込むよりも、「やっていて苦じゃないな」くらいを基準に仕事を探せばいいんじゃないかと思います。
 基本的に、あんまり簡単すぎると飽きてしまうし、難しすぎたりすると苦痛に感じるので、自分の力よりもほんの少しレベルが高いくらいの仕事が、クリアしたとき適度な達成感が得られておすすめです。そういう意味で、「まあ苦じゃないな」くらいの距離感が適当だと思います。 (ひろゆき『凡人道 役満狙いしないほうが人生うまくいく』宝島社) ~


 仕事については「好きなことをやりたい」という気持ちをいったん棚上げしてもいい。
 むしろ、何をやることになっても力を発揮できる自分を作ることを優先すべきだ。
 そのために、どの大学でどんな勉強をするのがベターなのかという感覚で考えてみよう。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

志らく大全集

2019年10月16日 | 演奏会・映画など
 国立演芸場で、久しぶりに、というかテレビ的にメジャーになってからは初めて、志らく師匠の噺を聞く。
 古今東西の名作映画を、江戸を舞台におきかえて落語にする「シネマ落語」なる企画は、志らく師匠にしかできないネタだ。
 前半に「ぞろぞろ」「明烏」の古典二席を、そして後半に「素晴らしきかな、人生」が落語化された作品をたっぷり聴く。
 原作の力は大きいに決まっているのだが、それを落語にして、「ぞろぞろ」の神様や「明烏」の若旦那をフィーチャーして、たった一人で演じて、原作なみに泣かせる仕上がり。ただものではない。
 師匠のtwitterに、「テレビばかり出てないで落語に専念したほうがいいんじゃない」という書き込みを見たことがある。
 どう考えても、落語を聞いたことのない人のものだ。たしかに寄席に立川流は出ないが、志らく師匠レベルでホール落語を催している噺家さんは、そうはいない。理由は簡単だ。お客を呼べないからだ。
 いま東京だけで数百人の噺家さんがいるが、独演会なり二人会なりを企画して、たとえば100人ぐらいのハコでも、満席にできる人は少ない。きびしい世界だ。音楽も同じか。
 音大を優秀な成績で卒業して、リサイタルに100人呼べる演奏家がそうそうはいないのと同じだ。
 テレビに出るようになって、はたして芸は「あれて」いるのか。
 そんなことがあるはずがない。むしろ「文武両道」だ。
 部活をやめて勉強ができるようになる例は少ないし、部活でいい活動ができているときは、勉強も集中できている。
 落語家でしかも立川流という特殊なグループにいる方だからこそ、ちがう現場での経験を積み、いままで絶対に自分の前にはいなかったようなお客の前で演じることは、芸を深くこそすれ、あれさせるはずがない。
 若い頃ほど声が出てなかったが、だから逆に家元に近づいて、名人感も増していた。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

「こころ」の授業(4)

2019年10月11日 | 国語のお勉強(小説)
四段落

 ある日私は久し振りに学校の図書館に入りました。私は広い机の片隅で窓から差す光線を半身に受けながら、新着の外国雑誌を、あちらこちらとひっくり返して見ていました。私は担任教師から専攻の学科に関して、次の週までにある事項を調べてこいと命ぜられたのです。しかし私に必要な事柄がなかなか見つからないので、私は二度も三度も雑誌を借り替えなければなりませんでした。最後に私はやっと自分に必要な論文を探し出して、一心にそれを読み出しました。すると突然幅の広い机の向こう側から小さな声で私の名を呼ぶ者があります。私はふと目を上げてそこに立っているKを見ました。Kはその上半身を机の上に折り曲げるようにして、彼の顔を私に近づけました。ご承知のとおり図書館ではほかの人のじゃまになるような大きな声で話をするわけにゆかないのですから、Kのこの所作はだれでもやる普通のことなのですが、私はそのときに限って、一種変な心持ちがしました。
 Kは低い声で勉強かとききました。私はちょっと調べものがあるのだと答えました。それでもKはまだその顔を私から離しません。同じ低い調子でいっしょに散歩をしないかというのです。私は少し待っていればしてもいいと答えました。彼は待っていると言ったまま、すぐ私の前の空席に腰を下ろしました。すると私は気が散って急に雑誌が読めなくなりました。なんだかKの胸に一物があって、談判でもしに来られたように思われてしかたがないのです。私はやむを得ず読みかけた雑誌を伏せて、立ち上がろうとしました。〈 Kは落ち着き払ってもう済んだのかとききます 〉。私はどうでもいいのだと答えて、雑誌を返すとともに、Kと図書館を出ました。
 二人は別に行く所もなかったので、竜岡町から池の端へ出て、上野の公園の中へ入りました。そのとき彼は〈 例の事件 〉について、突然向こうから口を切りました。前後の様子を総合して考えると、Kはそのために私をわざわざ散歩に引っ張り出したらしいのです。けれども彼の態度はまだ〈 実際的の方面 〉へ向かってちっとも進んでいませんでした。彼は私に向かって、ただ漠然と、どう思うと言うのです。どう思うというのは、そうした恋愛の淵に陥った彼を、どんな目で私が眺めるかという質問なのです。一言で言うと、彼は現在の自分について、私の批判を求めたいようなのです。そこに私は〈 彼の平生と異なる点 〉をたしかに認めることができたと思いました。たびたび繰り返すようですが、彼の天性は人の思わくをはばかるほど弱くでき上がってはいなかったのです。こうと信じたら一人でどんどん進んでゆくだけの度胸もあり勇気もある男なのです。養家事件でその特色を強く胸のうちに彫りつけられた私が、これは様子が違うと明らかに意識したのは当然の結果なのです。
 私がKに向かって、この際なんで私の批評が必要なのかと尋ねたとき、彼はいつもにも似ない悄然とした口調で、〈 自分の弱い人間である 〉のが実際恥ずかしいと言いました。そうして迷っているから自分で自分がわからなくなってしまったので、私に公平な批評を求めるよりほかにしかたがないと言いました。私はすかさず迷うという意味を聞きただしました。彼は進んでいいか退いていいか、それに迷うのだと説明しました。私はすぐ一歩先へ出ました。そうして退こうと思えば退けるのかと彼にききました。すると彼の言葉がそこで不意に行き詰まりました。彼はただ苦しいと言っただけでした。実際彼の表情には苦しそうなところがありありと見えていました。もし相手がお嬢さんでなかったならば、私はどんなに彼に都合のいい返事を、その渇ききった顔の上に慈雨のごとく注いでやったかわかりません。私はそのくらいの美しい同情を持って生まれてきた人間と自分ながら信じています。しかし〈 そのときの私は違っていました 〉。

 悄然 … しょんぼりする様子
 慈雨 … 恵みの雨

Q18「Kは落ち着き払ってもう済んだのかとききます」という描写の役割を説明せよ。
A18 自分の都合だけを考え、他人の様子に無頓着なKの様子を描写し、
   一般的な観点からすると人間性に問題があったことをそれとなく示している。

Q19「例の事件」とは何か、簡潔に記せ。
A19 お嬢さん問題

Q20「実際的な方面」とはどういうことか。
A20 自分の恋心に基づき、何らかの具体的行動にでること。

 「彼の平生と異なる点」について、
Q21「平生」のKはどんな人物だったとここでは述べられているか。35字以内で抜き出せ。
A21 こうと信じたら一人でどんどん進んでゆくだけの度胸もあり勇気もある男

Q22 どのような点が「平生と異な」っていたのか。本文の語を用いて20字程度で記せ。
A22 現在の自分について私の批判を求めている点。

Q23 「自分の弱い人間である」とあるが、Kは何によって自分を「弱い人間である」と判断しているのか。簡潔に述べよ。
A23 恋愛感情をもったこと

Q24 「その時の私は違っていました」とあるが、なぜか。20字程度での記せ。
A24 お嬢さんを自分の結婚相手と考えているから。


事 Kが相談にくる
 ↓
心 違和感
 ↓
行 Kを観察する

 平生のK……自分の道を突き進む
   ↑
   ↓
 現在のK……私に批評を求めている
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

ノーベル文学賞

2019年10月10日 | 日々のあれこれ
 今年もとれなかったか。
 リチウム電池の吉野先生でさえ、何年も待ち焦がれていたくらいだから仕方がない。
 あれほど大きく人間の生活を変える発明をしたのだから、まっとうな賞であるなら、早かれ遅かれ受賞したことだろう。
 ただし文学賞と平和賞に関していえば、「まっとう」と言えない要素をもっっていることは多くの人が指摘するとおりだ。
 そもそも「文学」と「賞」とは、本質的なところで相反するものではあるし。
 しかし、文学研究に一石を投じたいとの思いで、ちまちま書いていることはたしかだし、ボブ・ディランも受賞したのだから、一国語教師が受賞してもおかしくはないはずだ。
 「李徴はなぜ虎になったのでしょう」とか「Kの自殺の理由は何でしょう」的な授業がいまだに行われている、薄ら寒い国語教育界をなんとかしたいとの思いは、評価される日は来るだろうか。
 ノーベルイベント賞とか狙った方が道は近いだろうか。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする