水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

定演前後

2021年03月30日 | 日々のあれこれ
 3月26日。午前中荷造りとパンフレットを折る作業。積み込みして移動し、午後ウエスタ入り。楽器を入れ、山台を組んで、まずは二部の練習。流れを追いながら、役者の立ち位置や着替えのだんどりを確認し、担当者が音響と照明の扱い方を習う。お芝居のストーリーにあわせてJポップを演奏するという二部が定番になってしまったので、やはり前日のリハーサルが必要だ。本番当日は、いろんなものがセット出来てる状態からスタートできるのもありがたい。
 27日。午前中は二部の練習。音響と照明の卓の担当者二人が有能なので、操作のコツをつかんでいるようだが、ピンマイクとワイヤレスの使い分けの調整に苦労していた。保護者会から差し入れていただいたお弁当をいただき、午後のリハーサル。一部、三部の曲は部分的に少しだけ。拍子の変わる「ポップコピー」で一番不安なのは指揮者なのだが、部員もそれを理解しながら対応してくれている。アンコール「ヘアスプレー」に新しい動きを足してみたが、直前の集中力からか、すぐ身に付いた。
 そして本番。思いのほか多くのお客さまにお越しいただいた。例年にはない受付での記名や検温はすべて保護者会の方がやってくださった。手伝いに来てくれたOBは舞台まわりに専念してもらえる。おかげでいろんなことがスムーズに進行でき、本番がはじまったら余裕を感じたくらいだった。
 本番を終えて、ミーティングして、撤収。1・2年生で学校にもどり片付けをし、部員を駅まで送る。16時開演だと、その日のうちに片付けまでできる。
 28日、29日はオフ。いただいたアンケートを読んだり、ウエスタの使用料を振り込みにいったり。時間を気にせずお昼をたべられた。「ノマドランド」も観れた。
 30日。まずはそうじ。基礎合奏、曲合奏。課題曲1をもう一回やり直してみる。あと「夜に駆ける」。音が少ししっかりしている気がする。「こんなに盛りだくさんで大丈夫?」というぐらいの負荷は、若者には必要なのだろう。やってみて駄目なら修正すればいいだけだから、最初から無理と決めつけずいろいろやろうとするのはプラス、というのが今年の教訓だった。
 「延期や中止にした学校さんも多いこの時期に開催出来るだけでもありがたいことだな。ここまでできるって見せてみようぜ」と練習再開時に話したことを思い出す。3週間弱で、しかも1、2年ともに初の演奏会で、よくがんばった。かりに単なる思い込みであっても、「やればできるかも」と内面にあることが「体力」になる。こんな経験ができる環境を用意してもらえていることに感謝したい。
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定期演奏会

2021年03月27日 | 日々のあれこれ
 たくさんのご来場、ほんとうにありがとうございました!!

  川越東高校吹奏楽部 第28回定期演奏会

 日  時 3月27日(土) 15:15開場(15分はやめます)入場無料
               受付で検温・消毒・ご記名にご協力ください
               16:00開演 18:30終演予定

 会  場 ウエスタ川越 大ホール(JR・東武東上線川越駅西口より徒歩5分)

 演 奏 曲 1部 「あんたがたどこさ」の主題による幻想曲
          ポップ・コピー
          ミュージカル「レ・ミゼラブル」より

       2部 「嵐メドレー」
         ~ フレフレ龍馬!2020 あふれ出す思いをあなたに伝えたい ~

       3部 君の瞳に恋してる
          セプテンバー 
          ボレロ(in Pops)
                       ご来場お待ちしてます!!

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2部紹介(3)

2021年03月24日 | 日々のあれこれ
 「嵐」は新しい時代の誕生を見届け、言祝ぎ、そして自らは活動を休止していく道を選びました。
 「嵐」というグループとしての活躍を目にすることはなくなりましたが、彼らが残してくれたものは失われません。私たちの心に植え付けてくれたものは、いろんな形で育ち続けます。
 人と人との関係も同じような気がします。
 人は出会い、必ず別れを迎えます。ずっと一緒にいようと誓い合い生涯をともにすることができても、どちらかの死という形での別れを免れることはできません。
 でも、別れが「無」でないことを私たちは知っています。
 直接会えない時間がほんの少しでも、心がつながっている感覚を経験しています。
 高校三年間をともに過ごし、その後ずっと会えなくても、何年かぶりに再会して昔と同じように話が出来るのは、別れていても一緒にいたからです。
 何かの拍子にふと「嵐」の曲を口ずさめるのは、一緒に生きているからです。
 物理的に一緒にいるかどうかなんて、ささいなことではありませんか。
 部活動は、そういう形でともに生きる仲間をつくる場であるともいえます。「不要」なはずはないですよね。
 今日こうして、あなたと出会い、ともに過ごせた時間に感謝します。
 演奏会が終わり別れても、一緒に生きていけることに感謝します。
 なんとかセミナーの勧誘みたいな文章になってしまいました……。
 二部の「嵐メドレー」に登場する人物達も、私たちと同じように「嵐」が隣にいた時代を生きて、物理的にそばにいなくても、心の中にいる人への思いを抱きながら毎日を過ごしています。最後までお楽しみください(前置き、長っ!)。

 ~ 夏疾風(2018年)~ Happiness(2007年)~ A・RA・SHI(1999年)
    愛を叫べ(2015年)~ 君のうた(2019年)~ カイト(2020年)~
     Journey to Harmony(2019年)~
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2部紹介(2)

2021年03月23日 | 日々のあれこれ
 今の高校生がまだ生まれていない「嵐」デビューの年、あなたは何歳でしたか?
 「花より男子」が大ブレークした2007年、あなたは何歳でしたか? 
 「OneLove」「明日の記憶」「マイガール」……すべてが大ヒットし、初めて「紅白」に出たとき、あなたは何をしていましたか? 誰と紅白歌合戦を見ましたか?
 「紅白」初出場のとき、結成から10年も経っていたんですね。
 あなたが初めて好きな人ができたとき、聞こえてきた嵐の曲はなんですか?
 赤ちゃんをあやしながら聞いていた曲は何ですか?
 カーステレオからはどんな曲が流れてきましたか?
 ちょうど嵐さんが生まれた頃に出会い、恋をして、家庭を築き、生まれたお子さんが今ちょうど高校生……、そんなご家族もあるのではないでしょうか。
 とりたててファンではなくても、この20年の間、いろんな形で彼らの音楽に触れ、ドラマや映画を見、バラエティ番組での楽しい様子、震災のあと被災地はもとより私たちの心によりそい続けてくれたふるまい……。
 これほど老若男女を問わず広く愛されたグループはなかなかありません。
 平成から令和に変わるときの、新しい天皇陛下を祝賀するために捧げられた「Journey to Harmony」も感動的でした。
 岡田恵和さんの作詞、菅野よう子さんの作曲、嵐さんの歌唱。
 円熟した作り手、成熟した歌い手が、たまたま時代の変わり目に存在するという奇跡によって生まれた作品ではないでしょうか。日本の、音楽だけでなく文化全体の伝統と未来が象徴されていると感じました。
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2部紹介(1)

2021年03月22日 | 日々のあれこれ
嵐メドレー「フレフレ!龍馬2020」~ あふれだす思いをあの人に届けたい ~

 2020年12月31日をもって活動休止……。
 嵐ファンのみなさんは、この事実をどんなふうに受け止めたのでしょうか。
 ファンでなくても、自分の人生の中に自然に存在し、いつもそばにあると疑わなかったものを失うことへの寂しさを感じ、時代の区切りを意識した方は多いと思います。
 喪失感の大きさは、裏返せば、いかに彼らが私たちを支えてくれていたかということです。 ほんとに長い間ありがとう、おつかれさまという思いしかありません。
 それにしても、結成から20年……。
 現役の高校生達が生まれる前から、「嵐」は、歌い踊り演じ語り、私たちを笑わせたり泣かせたり勇気づけたりしてくれました。
 「嵐」が結成されたのは1999年。1900年代の最後の年です。
 wikipediaで調べてみるとこんな事件があった年です。
 1月:欧州連合でユーロが導入される、3月:日産自動車がルノーと提携、4月:コロンバイン高校銃乱射事件、7月:ノストラダムスの大予言あたらず、12月:パイオニアからDVD発売。ベストセラーは『五体不満足』、大ヒットした曲は「Loveマシーン」「Automatic」「だんご3兄弟」……。ぴんときましたか?
 音楽業界でいえば、浜崎あゆみ、Gray、ドリカム、Kinki kids、槇原敬之、ゆずといったそうそうたる方々が全盛期を誇り、宇多田ヒカルさんがデビューした年に、ジャニーズからは嵐が「A・RA・SHI」で打って出たわけですね。
 ちなみに、年が明けて2000年の3月19日に、本吹奏楽は第9回の定期演奏会を「やまぶき会館(川越市民会館中ホール)」で開催しています。一部「仮面幻想」「プスタ」、二部「ザ・ヒットパレード」「美女と野獣」といった、二部構成のプログラムで行いました。このあたりから徐々に、少しでも楽しい演奏会を作ろう、川東の色を出そうと模索しはじめた時期のような記憶があります。
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あのこは貴族

2021年03月10日 | 演奏会・映画など
 慶應大学に合格して富山から上京した美紀(水原希子)が見る「東京」像は、富山県出身の原作者、山内マリコさんが見てきたものが投影されているのだろう。
 学生時代、慶應に入った高校の同級生を頼って東京に遊びにいった。
 キャンパスに入り、都会の大学の雰囲気を味わわせてもらった。知り合いと出会った友人が、とってつけたような東京弁で会話するのを見て、ムリしてないか? とも感じた。
 上野毛にあったそいつのアパートで何泊かさせてもらい、ドキドキしながら都内をふらつき、でも金沢にもどったときは落ち着いたような気分になった記憶がある。その何十年後、こんなにも都会に慣れ親しんだシティボーイになるとは思いもしなかった……(遠い目)。
 田舎の進学校で猛勉強して、都会の大学に入り、しかも慶應だったりすると、内部生とのヒエラレルキーの違いが厳然と存在することにも気づいたりして、地方人が想像するような優雅な大学生活にはならないのかもしれない。
 希子ちゃんと、親友の山下リオちゃん二人組が、田舎から上京してきた子のとまどいとカルチャーギャップの感じ方が見事に描かれている。
 でも、たまに田舎に帰って同窓会に出ると、地元に残った友人達とは、また別の意味の隔たりを感じてしまう。
 さらに、学費、生活費の問題がある。すでに大学を卒業した娘二人は家から通っていたが、もし都内にアパートを借りるということになっていれば、こんなにamazonで本を買いまくることを許してはもらえなくなってただろう。
 地方に住む、地方から抜け出すということは、都会やその近郊に住む人に知らない苦労がある。
 美紀は、父親の仕事がうまくいかず、アルバイトで生計を立てざるを得なくなる。
 ただ生きていく分を稼ぐのが難しいのに、学費も工面するのは容易ではない。
 結局は大学を中退することになり、しかし挫けることなく都会でそれなりに暮らしを整えていく美紀。
 希子ちゃんへのキャスティングはどうかなと思っていたが、完璧だった。
 今までみた作品のなかで一番いかされていた。主演女優賞確定。
 もう一人の主人公、門脇麦ちゃんもよかった。
 上流階級に生まれ育った華子役。親は開業医で、松濤に邸宅を構えている。
 いつも自転車移動の美紀に対して、華子はほとんどタクシーで移動する。
 ほかにもいろんな対比を描きながらら、決して二人を対決させない。
 上流に生まれても、地方から出てきても、別種の生きづらさを同じくらい感じている。
 それは対決させて、どちらかをいい悪いに仕立て上げて片付く問題ではないという、監督さんのメッセージなのかもしれない。
 「女は女性というだけで差別される!」と気炎を上げている方々は本質を見ていないという、アンチテーゼだったりもするだろうか。
 いや、そういう思想的なものではないかな。 
 おわりの方で、美紀が華子にこう言う。
 「あんまり事情はわかんないけど、どこに生まれてもさ、最高っていう日もあれば、たえられない日もあるよ」
 こういうのを地に足のついたやさしさと言うのだろう。
 いい作品だった。
 水原希子、山下リオ、門脇麦、石橋静河、篠原ゆき子、石橋けい、高橋ひとみ……。
 よくぞここまで仕事のできる女優さんをそろえられたものだ。ほんとにいい作品だった。
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さて

2021年03月05日 | 日々のあれこれ
 3月2日。卒業式の予行は、わりとすぐ終わる。2年続けて校歌指導できなかった。このままでは歌詞を忘れてしまうかもしれない。
 そして予餞会。教員がもちよったプレゼントの抽選会からの、3年教員チームの歌は「3月9日」。みんなで大合唱できないのは、やはりさびしい。自分のプレゼントは、レトルトの「ゴーゴーカレー」と文庫本『夏への扉』。もらった子は、たいしたもんじゃなかったと思ったかもしれないが、自分の人生における、ベスト級に好きな食べ物と本の組み合わせだ。次回(次回があるなら)、ベストCD「氷の世界」もつけよう。ベストDVD「ローマの休日」も。べっこうのピック、曲げわっぱの弁当箱、デンハムのジーンズ……予算オーバーか。
 3月3日。卒業式。呼名からの卒業証書授与、褒賞授与、校長式辞、送辞、答辞で30分強。昨年に続いて教員と卒業生のみシンプルな形だった。保護者の方には入っていただきたいが、式次第そのものは今後もシンプルなままでいいんじゃないかな。祝電とか形だけになってるし。
 とはいえ、ここで終わったのでは私学年の名折れだ。前日3年生だけで仕込んだサプライズを用意させてもらった。
 今年度で勇退される学校長への卒業証書授与だ。12月にサプライズをしかけられたラグビー部部長にその重責をになってもらった。
 「卒業証書 あなたは、長らく川越東高等学校の発展に寄与し、私たち川東生が、のびのび過ごすことができる学校をつくってくださいました。本年度をもって学校長職を卒業することをここに証明するとともに、その努力と愛情に感謝の意を表します。長い間おつかれさまでした。川越東高等学校35期卒業生一同」
 いい仕事したなと思えた。
 3月4日。入試で卒業式に出られなかった子に、職員室で授与式をする。少し運動して、映画へ。
 3月5日。学年末考査初日。試験監督が一つ。来年度の授業へのアイデアが山ほど降ってきた。
 卒業関係も一段落したかな。
 さて、定期演奏会をどうしてくれようか。先日、会場の人と打ち合わせした時とは様子がちがってきてしまったが、いいアイデアがふってくるような気もする。
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ふっきれたから

2021年03月04日 | 日々のあれこれ
 先日、朝のナックファイブで、アロハ太朗さんが高校入試について話していた。
 一番の小説問題は、一色さゆり『ピカソになれない私たち』からの出題。
 美大に通う学生が、自分の絵について悩む場面だった。漫画家の太朗さんは、身につまされるものがあったという。
 そうだろうなあ。こういう分野で生きていこうとする人で、本当に食っていけるのか、そもそも自分に才能があるのかと思い悩んだ経験は、けっこうな人が抱くのではないだろうか。
 太朗さんは言う
 最後の問題は、自分が正解を言いますね。
 そんな何十字も書かせなくていいよ、正解はね「ふっきれたから」、これでいいんですよと。
 たしかに、先日問題を見たとき、そんな印象があった。ちゃんと読み直してみた。


~ 望音さ、と太郎は天を仰いだ。
「へこんでる場合じゃないよ。目の前に広がってる可能性に比べたら、どれもちっぽけなことじじゃん。望音が本当にいいと思う絵を描いていれば、望音が望音じゃなくなるわけないよ。だって望音には、才能があるもん。」
 太郎は自分の言葉に納得したようにつづける。
「うん、才能だよ。運や努力も関係するんだろうけど、生まれつき途方もない才能があるやつって世の中にはごく稀にいると思うんだ。そういうやつは放っておいても、回り道しても、いつか絶対に花ひらく。まわりには想像もつかなかったような、大輪の花を咲かせるんだよ。」
 才能という、実体のない言葉が望音にはずっと苦手だった。
 母をはじめ周囲の口から出るたび、ぴんと来なくて信じられなかった。
 自分に才能があるのかどうかは分からない。でもこうして誰かに才能があると信じてもらうことが、こんなにも勇気になるのだと望音ははじめて知った。太郎の言葉が、強力なおまじないのように望音に勇気を与える。その勇気が指先に伝わり、絵を描きたいという気持ちが広がっていく。
「俺さ、望音が咲かせるその花を、いつか見られるのを今から楽しみにしてるんだ。だってその花は本人への贈り物なだけじゃなくて、結果的にはまわりへの贈り物でもあって、他の大勢の人の心に必ず残るものだから。」
 太郎は絵画棟を見上げながら言った。
「〈 ④太郎さん、ありがと。 〉」
 太郎と別れたあとアトリエに戻りながら、望音は不思議と痛みと耳鳴りが消えたような気がした。

問4 ④「太郎さん、ありがと。」とありますが、このとき望音が太郎に感謝をしている理由を、次のようにまとめました。空欄にあてはまる内容を、卒業制作、未知の二つの言葉を使って、四十字以上、五十字以内で書きなさい。ただし、二つの言葉を使う順序は問いません。(7点)

 太郎が、自分の才能を信じてくれて勇気が出たということだけでなく、〈     〉と思わせてくれたから。 ~


 選択肢の問題でも、選択肢を読む前に自分で答えを作ってみる作業が大事なので、まずは解答の条件を無視して考えてみる。
 太郎は言う。


~ 「へこんでる場合じゃないよ。目の前に広がってる可能性に比べたら、どれもちっぽけなことじじゃん。望音が本当にいいと思う絵を描いていれば、望音が望音じゃなくなるわけないよ。だって望音には、才能があるもん。」 ~


 出題された部分以外にも、望音の悩みはいろいろ書かれているのだろう。
 一番大事なのは、望音自身の回想部分にあることは間違いない。


~ 望音はロンドンの喧騒を行き先も決めずに彷徨った。明るい未来がこの街に広がっているはずなのに、頭のなかを不安が塗りつぶす。離島出身で美術のことも日本のこともなにも知らなくて、東京でだって精一杯なのに、さまざまな人種や言語の行き交う、当たり前に自己主張を求められる大都会で、本当に自分はやっていけるのか。 ~


 ほんとに自分は留学できるのか。どんな絵を描きたいのか、自分の将来をどうしたいのか。
 ただ絵が描きたいだけと思ったり、口に出したりするのは、もしかしたら逃げかもしれない。
 そんな悩みが、今の自分を束縛し、絵を描き始めたころの感覚を失わせている。
 そんな望音を太郎は一喝する。
 おまえ、ふざけんなよと。
 ニュアンスとしては、「ロイアカに誘われて悩むなんてばかじゃねーのか?」という思いだろう。
 そして太郎は続ける。


~ 「うん、才能だよ。運や努力も関係するんだろうけど、生まれつき途方もない才能があるやつって世の中にはごく稀にいると思うんだ。そういうやつは放っておいても、回り道しても、いつか絶対に花ひらく。まわりには想像もつかなかったような、大輪の花を咲かせるんだよ。」 ~


 望音は才能という言葉が苦手だった。「あなたは才能がある」とずっと言われて育ってきたのだろう。
 母親や田舎の人に言われてぴんとこなかった言葉だが、太郎に言われて心がわきたってくる。
 ここには書いてないけど、太郎への友情以上の思いが加わっているのではないだろうか。


~ 自分に才能があるのかどうかは分からない。でもこうして誰かに才能があると信じてもらうことが、こんなにも勇気になるのだと望音ははじめて知った。太郎の言葉が、強力なおまじないのように望音に勇気を与える。その勇気が指先に伝わり、絵を描きたいという気持ちが広がっていく。
「俺さ、望音が咲かせるその花を、いつか見られるのを今から楽しみにしてるんだ。だってその花は本人への贈り物なだけじゃなくて、結果的にはまわりへの贈り物でもあって、他の大勢の人の心に必ず残るものだから。」
 太郎は絵画棟を見上げながら言った。
「〈 ④太郎さん、ありがと。 〉」
 太郎と別れたあとアトリエに戻りながら、望音は不思議と痛みと耳鳴りが消えたような気がした。 ~


「太郎さん、ありがと。」の心情は、どう書けばいいだろう。

 自分が絵を続けることの意味に思い悩んでいたが、
 才能を自分のためだけでなく他人のためにも発揮すべきだと勇気づけてくれる太郎の言葉を聞き、
 いろんな迷いが消え、絵を描きたい気持ちがあふれてきた状態。

 これで百字くらい。
 うん、アロハ太朗さんの答えと同じだ。
 埼玉県の正解例をみてみた。


~ 太郎が、自分の才能を信じてくれて勇気が出たということだけでなく、
  〈 自分の卒業制作のプランは自己模倣でしかなく、もっと広くて未知の世界に足を踏み入れる必要がある 〉
  と思わせてくれたから。 ~


 そっか、卒業制作とか入れないといけなかった。
 でも、それが一番なの? センターの選択肢でこういうのがあると、「セマい」とか「ズレてる」扱いされそうだけど。
 ちょっと出題者と意見がずれてしまった。だから私立高校で働いてるのか。
 この試験で思うように点がとれなくて本校にくることになった新入生の方がいるなら、がっつり指導させていただきたい。
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かけがえのない存在

2021年03月03日 | 学年だよりなど
3学年だより「かけがえのない存在」


~ この前、川を見つめたのはいつでしたか。
  砂の上に座ったのは、草の上に座ったのはいつでしたか。
  「美しい」と、あなたがためらわず言えるものは何ですか。
  好きな花を七つ、挙げられますか。
  あなたにとって「わたしたち」というのは、だれですか。

  夜明け前に鳴き交わす鳥の声を聴いたことがありますか。
  ゆっくりと暮れていく西の空に祈ったことがありますか。
  何歳の時の自分が好きですか。
  上手に年を取ることができると思いますか。
  世界という言葉で、まず思い描く風景はどんな風景ですか。

  今あなたがいる場所で、耳を澄ますと、何が聞こえますか。
  沈黙はどんな音がしますか。
  じっと目をつぶる。すると何が見えてきますか。
  問いと答えと、今あなたにとって必要なのはどっちですか。
  これだけはしないと心に決めていることがありますか。

  いちばんしたいことは何ですか。
  人生の材料は何だと思いますか。
  あなたにとって、あるいはあなたの知らない人々にとって、
  幸福って何だと思いますか。   (『長田弘詩集』ハルキ文庫) ~



 みなさんの親御さんは、三年間を無事過ごしたみなさんに感謝しているかもしれない。
 感謝すべきはみなさんの方なのに。
 あたりまえの毎日があたりまえのように過ぎていくことは、実は奇跡的なことであることを、私たちはどこかで感じている。大きな災害を見聞きしたり、事故や病気といった自分ではどうしようもできない状況におかれた人のことを知った時に、その感覚が急に現実になる。
 人生の中で十代後半の貴重な三年間を無事過ごしたことは、親御さんにとっては、自分の今の三年間よりもうれしいものだ。そんなふうに思う人がいることを、心のすみにとどめておいてほしい。
 そして、いつか自分もそんなふうに思える存在と出会えることがことができたなら、それはお金や地位や名誉には置き換えることのできない幸せなのではないかと思う。


~ 幸せとは 星が降る夜と眩しい朝が 繰り返すようなものじゃなく
 大切な人に 降りかかった雨に 傘を差せる事だ  (清水依与吏〈back number〉「瞬き」) ~


 卒業おめでとう。交通事故に気をつけて帰ろう。
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胸をはる(3)

2021年03月03日 | 学年だよりなど
3学年だより「胸をはる(3)」


 宮村くんの理解者がもう一人いた。今は別の高校に通う幼なじみだ。
 堀さんという子と仲良くなったという話をしているうちに、「でも、つりあわないからさ」的な言葉を発した宮村くんを叱る。
 「おまえ、釣り合わないからとか言い方してるけど、それって逃げてるだけじゃねえか!」。
 こんなふうに言ってもらえる友人がいたら、大事にしよう。
 「どうせ叶わない夢」「自分なんかには大それたこと」という物言いは、謙虚ぽくは聞こえるが、そこには逃げがある。
 失敗したら恥ずかしいという気持ちが、やる前から逃げ道を用意しているのだ。
 他人がどう思おうが、こうしたいと思ったことはとりあえずチャレンジではないか。
 命まではとられない。失敗しても、思うほど他人は見ていないものだ。
 人はそんなにひまではないし、あざ笑うようなヤツとは付き合わなければいだけだ。
 やりたいこともそうだし、人間関係においても、「つりあい」とか「上下」とか関係ない。
 つきあいたい子がいたら、声をかける。シンプルに生きればいい。悩む時間がもったいない。
 受験で経験できたように、リスクのない人生はない。
 仲良くしていた友人と急にうまくいかなくなることもあるだろう。
 好きになって告白してふられて、といった経験もするだろう。
 つらいことではあるが、だからといって逃げている人生はもったいない。
 「自分なんか」ともし思ってしまうなら、自分を磨けばいい。
 かりに「もう立ち直れない」と思うほど落ち込んでいても、ふとミニスカートに目がいくなら、君はまだ大丈夫だ。


~ 最初の質問         長田弘

  今日あなたは空を見上げましたか。
  空は遠かったですか、近かったですか。
  雲はどんな形をしていましたか。
  風はどんなにおいがしましたか。
  あなたにとって、いい一日とはどんな一日ですか。
  「ありがとう」という言葉を今日口にしましたか。

  窓の向こう、道の向こうに、何が見えますか。
  雨の滴をいっぱいためたクモの巣を見たことがありますか。
  樫の木の下で、あるいは欅の木の下で、立ち止まったことがありますか。
  街路樹の木の名前を知っていますか。
  樹木を友人だと考えたことがありますか。 ~
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