昨日も紹介した、古本市で手にいれた
「首里城内の女たち」
(山里永吉著/沖縄文教出版株式会社/初版昭和47年)
その巻末に収録された、
琉球史や偉人達をモチーフにした短編小説。
昨日は尚徳の話を紹介しましたが、
今日は、放浪時代の阿麻和利と金丸の話、『雲風』
伊是名島を追われ、国頭も追われ、
妻・弟を置いて南に向かって仕える君主を探し求めつつ放浪する金丸。
そんな中、同じく放浪の身であった阿麻和利と出会います。
「まづは食うことじゃ。食べさせて貰えば、俺は与えられた仕事だけは忠実に勤める」
「欲のない奴じゃ」
阿麻和利は軽い侮蔑の色を浮かべて言った。
「人間食うだけのことは何をしても食える。
―――難しいのは、立身だ、出世だ、身の栄達だ!」
「立身、出世、そんなものは運命さ」
金丸は相変わらず無表情である。
「運命に逆らって、立身出世を望んだとて出来るものではない」
「違う!」
阿麻和利は、怒鳴るように、
「立身も、出生も、努力と才能で出来る。俺は運命など信じようとは思わぬ」
*
金丸には、阿麻和利の言葉がまるで子どもの夢としか聞えなかった。
ただ、たくましい四股と、澄み切った眼の底に、持ちきれぬほどの太い野心を隠している。
「俺は子どもの頃、佐敷按司尚巴志王を見たことがある。
狩猟の帰り、馬に乗っていたが、大柄ではあるが、みすぼらしそうな男だった。
―――あんな男に天下が取れて、この俺がただの按司になれぬわけがない」
うむ、野心に燃えるたくましい阿麻和利像ですな。
歳が10ほども違う金丸にふてぶてしいもの言いだ。
しかし、尚巴志王、大柄だがみすぼらしい男って(笑)
逆だろ(笑)
さて、二人が分かれたあと、
なんと金丸は
拉致られます。
連れてこられた先は中城、中城城増築工事の現場。
築城・増築のために島々からも人々を駆り集めてきて
過酷な労働を課したという、護佐丸の鬼っぷりが。
怠けるものは即座に斬るという悲惨な現場。
護佐丸に仕えるチャンスも得られようかと
金丸は黙々とそこで働き始めますが、
あまりの過酷さにその希望も失いかけたころ、出会ったある若い男。
働くのが嫌になったから逃げる、という。
2人で話している所を役人に見つかり
「怠け者」と斬られそうになり、
金丸は無我夢中で逃げ出します。
日が暮れ、隠れ潜んでいたところに
再び男が現れた。
もう1人の若い男を連れて。
「お前、金丸ではないか?」
今一つの影が、金丸の顔をさし覗いて、
「やっぱり金丸だ」
「おお、阿麻和利か」
「真五郎!」
阿麻和利は伴れの反歯を振り返って、
「これは、金丸という男だ」
「おまえ、知っていたのか?」
真五郎と呼ばれた反歯は、金丸に近づいて、
「俺は、お茶當の真五郎だ」
「お茶當真五郎?」
その名は、遠く国頭までも聞えていた。
――島々の按司の城のみを襲う、風のように剽悍な怪賊の名として。――
でたーーー!!真五郎!!(笑)
(過去記事→★)
やっぱり真五郎の伝説は色々と調べてみる価値がありそうですね。
ここでは真五郎と阿麻和利は「仲間」の関係ですね。
うむむ…おもしろい。
ちなみに真五郎、「ずっと小柄で貧弱」っていう描写。
だよねー。
やっぱり、ワタシ的に三白眼のガリだよ(笑)
松明の明かりが近づいた。
十人、十五人、否、二十人あまりの人が黙々と歩いてくる。
二騎の騎馬を囲んで、松明の明かりに槍の穂先や、太刀の鐺をきらめかして、
物々しい一行である。
騎馬の先頭は、六十余りの老人であった。
枯葉色の直垂を着て、白髭が銀のように美しい。
「護佐丸だ!」
阿麻和利がつぶやいた。
―――たぶんこの中城の築城の指図のため、
今の居城読谷山座喜味城からであろう。
「然し、若い後の騎馬は誰だ」
「あれか、」
お茶當真五郎が、側から
「あれが越来王子尚泰久だ」
「尚巴志王第七男、護佐丸にとっては、娘の婿だ」
「ふむ」
「尚巴志王の子供にしては凡愚な男だ。
護佐丸の翼賛があって始めて越来城にその存在を主張している、情けない男さ」
然し金丸は、不思議にその凡愚だという尚泰久に心をひかれた。
松明の明かりに照らされた半面に何か知ら深い温容を湛えているように見える。
金丸は、恐ろしい運命に向き合ったように、劇しい胸のおののきを覚えながら、
具象の権力が通り過ぎるのを、何時までも黙々と見守っていた。
(昭和10年琉球新報所載未完)
――って、
未完かーいっ!!
惜しい…。
実に惜しい…。
先が読んでみたかった…。
阿麻和利、金丸、二人が琉球を動かす立場になる前の物語。
すごい興味深いです。
策士・金丸という前の、人間・金丸が見えそうだったのに。
引用がかなり多くなってしまいましたが、
古本の中にもこんな掘り出しモノがあるなら
これからも要チェックですね★
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写真は中城グスク。