フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 NHK連続テレビ小説、いわゆる朝ドラの新しい作品が始まりました。今までの『寅に翼』にかわって、今月から『おむすび』が放送されています。
 『寅に翼』は好評でした。社会問題やジェンダー問題をふんだんに折り込んだ作品でした。後半はそうした問題を詰め込みすぎて、やや過剰になっているとも見えましたが、それでも見ている人たちにおおいに考えさせる内容になっていました。それに対して『おむすび』には、そうした考えさせる要素が少なく、全体に軽く見え、内容的にもインパクトがないように感じられます。
 これは作品の時代にも関係があります。朝ドラの一つの典型は、過去の実在人物をモデルとし、(主に女性の)新しい分野を切り開いた過程が描く作品です。当然、その時代の価値観との葛藤や格闘が生じるので、そこに強いインパクトが視聴者に対して生じます。それに対して現代を舞台にとった作品は、そうしたパイオニアとしての要素が少ないため、何か別の要素を取り入れる必要がありました。『あまちゃん』は東日本大震災とアイドル文化という要素から、『おかえりモネ』もまた東日本大震災と言葉の重さという要素から、現代劇であっても視聴者に強いインパクトを与えようとしていました。
 そうした過去の朝ドラから見てみると、『おむすび』にはそうした強いインパクト性が感じられません。それはこの作品の弱さともいえます。しかしながら、担当する脚本家・根本ノンジのこれまでの作品を見てみるならば、そうした強いインパクト性をはじめから狙っていないようにも思えます。根本ノンジはこれまで多くの作品を担当してきましたが、いわゆるエンタテインメント性の強い作品が多く、社会問題や強い主張をむしろ前面に出さないところに特徴があるように思います。近年でいえば『正直不動産』がそれにあたります。強引なやりかたで営業成績をあげてきた不動産会社の営業社員が、あるきっかけから「嘘のつけない」体質になってしまうというコメディ。だからどうというおおげさな主張は何もありませんが、見る人の心の中にほのぼのした印象を残す作品でした。それが視聴者に受け入れられたことは、第2シリーズが制作されたことからもわかります。
 『寅に翼』と『おむすび』を比較すれば、「インパクトが強い/インパクトが弱い」「社会問題に切り込む/社会問題にかかわりが薄い」「作品に重さが感じられる/作品が軽く感じられる」という差異は出てきます。しかし、それがイコール『おむすび』の弱点なのか。これはもう少し見てから判断したいところです。願わくば、『おむすび』の軽さがじわじわと視聴者にしみこみ、やがてその世界が視聴者にとって身近で親しいものになっていけばいいなあ、と期待しています。

(10月8日追記)
上記のように書いたのですが、2週目も見て、なんとなくもやもやしています。「朝ドラ」主人公というのは、だいたい自分のしたいことを一直線に追求していくか、あるいは自分のしたいことを真摯に探していました。『あまちゃん』のアキも『お帰りモネ』の百音も、したいことが決まらずにそれを探していました。アキが海女やアイドルになるまで、百音が気象予報士になるまで、したいことが決まらなくても、その姿勢は真摯でした。それなのに、今回の主人公・結が、むりやり(いやいや)ギャル仲間に入れられているところが不快です。いやいやなら仲間にならなきゃいいのに、朝からそういうもどかしい姿を見せられるのは、気分があまりよくありません。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土曜日)の更新を心がけています。



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