フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



1~3月期のテレビドラマも3分の1を過ぎました。毎クール恒例にしていた私のテレビドラマ批評・感想を書いておきましょう。全部書いてからアップしようと思っていたのですが、どうしても時間がとれません。今回残した分は後日また書き加えることにして、半分でも先にアップします。
 いつも通り、ドラマ名の後にここまでの視聴率を示しておきます。

『隠蔽捜査』 (フジ、月曜20時)  8.2
%→7.2%→7.5%
 杉本哲太と古田新太。『あまちゃん』に出演していた芸達者二人の主演による警察ドラマ。この二人が違ったタイプの警察官を演じます。それにしても、この二人は何を演じてもそれらしく見えますねぇ。杉本はこの作品では正義感が強く、まっすぐな警察官ですが、『あまちゃん』では完全なお笑い担当、先日放送の『相棒』では冷徹なテロリストを演じていました。配役・宣伝ともに地味なので、正直言って視聴率はとれませんが、玄人受けしそうな作品と言えるでしょう。

        
『失恋ショコラティエ』 (フジ、月曜21時)  14.4%→12.7%→13.3%
 以前は「月9」と言えば王道のラブストーリーでしたが、近年はさまざまな作品が放送されています。今回は久しぶりのラブストーリーかと思いきや、主人公はなんと「妄想王子」!イケメンなのに妄想癖があり、既に結婚してしまった人妻への片思いを続ける…といった設定。水城せとなの同名漫画が原作です。
 「いい年して妄想癖の主人公なんてキモい」といった感想もネット上に書かれていますが、私はけっこう面白く見ています。昔から、たとえば『めぞん一刻』などから、近年なら『モテキ』などまで、多くの作品に妄想癖の主人公は描かれているのですが、今回はイケメンで女性にモテモテなのに本人は片思いを続けるといった落差がみどころです。
          
『福家警部補の挨拶』 (フジ、火曜21時)  14.2%→11.5%→9.3%

 近年多い警察もの・犯罪もののうちの一作品。『相棒』の右京のような細部への徹底したこだわり、『ガリレオ』の湯川のような変人ぶり、『刑事コロンボ』『古畑任三郎』のような犯人先見せの趣向…といった、これまでの警察ドラマのいいところを合わせて盛り込んだ欲張りな作りになっています。ただ、いいとこ取りをすれば面白いとは限らないので、それらがうまく一作品として結集するかどうか。主人公の福家がコロンボや湯川学先生のような魅力を持てないと、ちょっとつらいかもしれません。
          
『チーム・バチスタ4』  (フジ、火曜22時)  12.9%→13.0%→12.6%→11.5%

 視聴率のとりにくい近年のテレビドラマ界において、パート4が作られるということ自体が、『医龍4』とともに今クールの快挙です。ホームランは打たなくてもシングルヒットは見込めるという、手堅さが持ち味です。私個人は謎解きの連続ものがやや苦手で、そのジャンルなら映画2時間くらいがちょうどよいと思いますが、先をどうしても見たくなるという、視聴者を引き付ける効果は高いと思われます。
          

『明日、ママがいない』 (日テレ、水曜22時)  14.0%→13.5%→15.0%

 児童養護施設の子どもたちを描いた作品で、養護施設やいわゆる「赤ちゃんポスト」を設置している病院からのクレームがついたことで騒がれている作品です。
 この件についてはいくつかのメディアから取材がありました(『週刊文春』『プレイボーイ』など)。私自身は、作品の表現に問題があると思うものの、放送を差し止めるといった措置はとるべきではない、最後まで見て判断したいという立場をとっています。
 詳しくは先日のブログを御覧ください。 → 「『明日、ママがいない』をめぐる騒動」
          
『僕がいた時間』 (フジ、水曜22時)  11.2%→9.4%→9.4%→8.5%
 難病に侵された青年(三浦春馬)を主人公とするドラマ。就職活動中の大学生がやっと就職したところに難病の診断を下されるという話。今は主人公が難病であることをまだ受け入れられず、恋人(多部未華子)にも家族にも告げられないでいるというあたりが描かれていまです。
 視聴率の面では苦労していますが、たいへん真面目な作りのドラマで、私は今クールの一押し作品だと思います。ごく普通の、どこにでもいるような青年と恋人を描く序盤と、そこから難病の宣告をされて、それを受け入れられずに苦しむ中盤の対比が、実に丁寧に描かれています。
 脚本は『僕の生きる道』(2003年)などを担当した橋部敦子。病気や死期を宣告されるところから始まるという点でも『僕の生きる道』と『僕のいた時間』は共通点があります。橋部敦子は昨年も『遅咲きのヒマワリ』という、すたれていく地方都市の青年たちの不安と希望を描いた佳作を発表しています。視聴率が低いということでこうした良い作品が評価されないとしたら、テレビドラマにとってたいへん残念なことです。視聴率以外のところからも作品を評価してほしいと思います。

          

『緊急取調室』 (テレビ朝日、木曜21時)  12.5%→13.4%→16.1%

 警察もの、犯罪ものは今クールもたくさんありますが、その中で私は、この作品が一押しです。そのことを『サンデー毎日』(2.2号、1月21日発売)の取材に答えたところ、その直後に視聴率がぐんと上がりました。ああ、もっと早くブログに書いておけばよかった。
 通常の警察もの、犯罪ものを見ていて私は一番不満に思うことは、犯人を捕まえて終わりの作品が多く、ときに犯人はあまりにもあっさりと自分の犯行を認めてしまうことです。犯罪を犯すのも安易なら、罪を認めるのも安易で、眼目は謎解きだけ…というドラマもあります。
 その点でこの作品が貴重なのは、「被疑者が真実を語るまでにこそ、ドラマがある」という、実は一番大切なことを重視していることです。初回の高島政伸、2回目の林家正蔵、3回目の安達祐美といった被疑者のキャスティングも絶妙で、主人公(天海祐希)との取調室での緊迫したやりとりに見ごたえがあります。

          
『S 最後の警官』
(TBS、日曜21時)  18.9%→15.2%→16.1%→12.9%

 今期も多い警察ものの1作ではありますが、他の作品とはかなり違っています。この作品は、向井理、綾野剛の主役二人をいかにかっこよく見せるか、その舞台が警察なのであり、謎解きや捜査の過程を楽しませる警察ものとは異なっています。また、テレビドラマは映画などに比べると製作費が少なく、ややチープに見えてしまうこともありますが(しかし私がテレビドラマの方が好きですが)、この作品はそういう安っぽさがありません。かなりおおがかりな映像を見せており、それもまた主役二人をかっこよく見せる役割を担っています。
 ただし、主役二人のファン以外もずっとついてきてくれるかどうか。私のような男性ファンまで見続るかどうかには、それ以外の面白さの要素が必要だという気がします。



          
今クール(3か月)期間のドラマではありませんが、NHK大河ドラマについても書いておきましょう。


『軍師官兵衛』  (NHK、日曜20時) 18.9%→16.9%→18.0%→16.5%→16.0%

 豊臣秀吉の軍師だった黒田官兵衛が主人公。戦国の時代に活躍した天才軍師を岡田准一が演じるということで、期待の高い大河ドラマです。
 そのわりに視聴率があがっていないという評判もあります。私が見るところ、よく言えば実にオーソドックスな大河ドラマ。主人公の生い立ちから少年時代・青年時代を描き、困難や挫折を経験して成長していく…という描き方がいかにも大河らしいと言えます。しかし、視聴者はぜいたくなもの。テレビドラマには7割の定形表現に3割の新しさを求めます。展開の中にベタな場面が多いこともあり、見ていてその3割の部分がやや物足りない印象はありました。これから成長した官兵衛の活躍を描くことで、あえて武将・ヒーローではない主人公を設定したことのオリジナリティを見せてほしいと期待しています。

『真夜中のパン屋さん』 
(NHK、再放送)

 既に再放送も終了していますが、ここで書いておきたい作品です。
 大沼紀子の原作をドラマ化した作品で、BSで放送された作品が昨年末に地上波で再放送されました。BS放送時にも「いい作品」という評判を多く聞きましたが、私は見逃していたので、地上波放送で見て、やはりいい作品でした。
 ドラマチックなことは何も起こらない作品ですが、それなのに、いやそれだからこそ、しみじみと味わえるドラマです。民放ドラマなら、視聴率を意識してもう少し視聴者にアピールする要素を盛り込むと思いますが、そうでないところがNHKドラマの良さでしょう。
 そういえば、このところのNHKドラマは佳作が続いています。特に火曜10時枠作品には『いつか陽のあたる場所で』『激流』『ガラスの家』『真夜中のパン屋さん』『紙の月』と、続けて佳作が放送されています。この枠放送のドラマはいずれも心理描写が丁寧ですから、私は毎回楽しみに見ています。

 朝ドラと大河以外もNHKドラマが頑張っていることを示すもので、民放とは違うテレビドラマをこれからも作っていってほしいと願っています。



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コメント
 
 
 
ごぶさたしております (金水 敏)
2014-03-01 19:54:53
宇佐美毅先生、いつもブログを楽しく拝見しております。

さて、来る3月22日、早稲田大学小野講堂で「ドラマと方言の新しい関係―『カーネーション』から『八重の桜』、そして『あまちゃん』へ」というイベントをやることになりました(詳細はURLのリンク先にあります)。特に『あまちゃん』の方言の使い方に画期的な新しさがある点について論じ、またNHKプロデューサーやことば指導の方など、現場の方もお呼びして座談会を行います。先生がおいで下さいますならばご招待させていたしますし、学生さんなどにお声がけいただけましたら幸いです。よろしくお願い申し上げます。
 
 
 
わずか30歳と言う若さで自らの命を絶った(自殺した)俳優の『三浦春馬』について。 (牢屋(ろうや)壮一)
2020-07-23 19:17:17
 牢屋(ろうや)壮一です。今回はタイトルにある通りわずか『30歳』と言う若さで自らの命を絶った(自殺した)俳優の『三浦春馬』について書きたいと思います。
 なぜ私(牢屋壮一)がこの記事本文のコメント欄に『三浦春馬』について書くのか、ですがこの記事本文で『三浦春馬』が出演したテレビドラマである『僕がいた時間』と言う作品が取り上げられているからです。
 私は残念ながら彼が出演したこの『僕がいた時間』と言うテレビドラマを見ていませんでした。
 今、書いた話と話が矛盾するようですが、私の手元に1枚の『DVD』があります。DVDマガジンとして隔週刊で発行(発売)された『西村京太郎サスペンス十津川警部シリーズDVDコレクション』です。
 このDVDマガジンの第14号には『寝台急行銀河殺人事件』が収録されています。実はこの『寝台急行銀河殺人事件』には何と子役時代の『三浦春馬』が出演しているのです。子役ですからまだ『三浦春馬』の初々しく瑞々しい演技を見る事ができます。
 この『寝台急行銀河殺人事件』と言うテレビドラマのDVDは三浦春馬がわずか30歳と言う若さで自ら命を絶った(自殺した)今では大変に貴重な映像を収録したDVDだと私(牢屋壮一)は思います。私(牢屋壮一)はこのDVDを大切にしたいと思います。
 それにしてもこの『三浦春馬』と言う俳優はこれからが最も期待される役者(俳優)と言われていただけに余りにも惜しいと私は思います。私(牢屋壮一)は三浦春馬の熱狂的なファンでも狂信的な『崇拝信者』でもありませんが、つくづくそう思います。心の底から『冥福』を祈りたいと思います。
 今回は以上です。
 
 
 
最近の刑事ドラマと警察ドラマの『傾向』について。 (牢屋(ろうや)壮一)
2021-04-10 20:12:33
 牢屋(ろうや)壮一です。今回はタイトルにもあるように最近の刑事ドラマと言うか『警察ドラマ』の傾向について書きたいと思います。
 昔は刑事ドラマと言う『ドラマジャンル』でしたが、現在では『警察ドラマ』と言う名称だそうですね。
 その『警察ドラマ』ですが、主としてドラマの素材と言うか題材として扱われるのは殺人や強盗などの凶悪犯罪を扱う刑事部の捜査1課や機動捜査隊が多いようです。詐欺や選挙違反などの知能犯を扱う『捜査2課』は余りドラマの素材として扱われないように思われます。それから警察でも『警備公安警察』と言うか公安部門は余り警察ドラマの素材と言うか題材とはならないと私(牢屋壮一)は思います。
 話は変わりますが、警察ドラマと言うか刑事ドラマでは必ずと言っていいほど被疑者と言うか容疑者(つまり犯人)を取り調べる場面がありますが、ああ言う場面を書く脚本家はどこまで正確に書いているのでしょうか?
 私(牢屋壮一)は本来的に刑法や刑事訴訟法などの『刑事法』や警察や犯罪捜査の問題に興味と関心があります。警察官向けの本を数多く出版している『立花書房』と言う出版社があります。この『立花書房』と言う出版社から『被疑者の取調べ技術』と言う本が出ています。
私(牢屋壮一)の手元にその問題の『被疑者の取調べ技術』と言う本があります。この本を書いたのは『綱川政雄』と言う人で本職の刑事です。この『被疑者の取調べ技術』と言う本の奥付によると、この本が出版されたのは昭和52(1977)年6月20日初版発行、平成9(1997)年2月10日初版14刷発行となっています。
 ここで私が何を言いたいのか、と言うとそれは警察ドラマや刑事ドラマの脚本家はこの『被疑者の取調べ技術』と言うような本を読んで『取り調べの場面』を書いているのか、と言う事です。極論を言うならばこのような本を満足に読んでいない脚本家は警察ドラマや刑事ドラマを書く資格がない、と言えるかも知れません(極論ですが)。この私(牢屋壮一)の意見について宇佐美先生はどのように思われるでしょうか?

 今回のコメントは以上です(牢屋壮一より)。
 
 
 
最近の刑事ドラマと警察ドラマの『傾向』について。 (牢屋(ろうや)壮一)
2021-04-10 20:12:34
 牢屋(ろうや)壮一です。今回はタイトルにもあるように最近の刑事ドラマと言うか『警察ドラマ』の傾向について書きたいと思います。
 昔は刑事ドラマと言う『ドラマジャンル』でしたが、現在では『警察ドラマ』と言う名称だそうですね。
 その『警察ドラマ』ですが、主としてドラマの素材と言うか題材として扱われるのは殺人や強盗などの凶悪犯罪を扱う刑事部の捜査1課や機動捜査隊が多いようです。詐欺や選挙違反などの知能犯を扱う『捜査2課』は余りドラマの素材として扱われないように思われます。それから警察でも『警備公安警察』と言うか公安部門は余り警察ドラマの素材と言うか題材とはならないと私(牢屋壮一)は思います。
 話は変わりますが、警察ドラマと言うか刑事ドラマでは必ずと言っていいほど被疑者と言うか容疑者(つまり犯人)を取り調べる場面がありますが、ああ言う場面を書く脚本家はどこまで正確に書いているのでしょうか?
 私(牢屋壮一)は本来的に刑法や刑事訴訟法などの『刑事法』や警察や犯罪捜査の問題に興味と関心があります。警察官向けの本を数多く出版している『立花書房』と言う出版社があります。この『立花書房』と言う出版社から『被疑者の取調べ技術』と言う本が出ています。
私(牢屋壮一)の手元にその問題の『被疑者の取調べ技術』と言う本があります。この本を書いたのは『綱川政雄』と言う人で本職の刑事です。この『被疑者の取調べ技術』と言う本の奥付によると、この本が出版されたのは昭和52(1977)年6月20日初版発行、平成9(1997)年2月10日初版14刷発行となっています。
 ここで私が何を言いたいのか、と言うとそれは警察ドラマや刑事ドラマの脚本家はこの『被疑者の取調べ技術』と言うような本を読んで『取り調べの場面』を書いているのか、と言う事です。極論を言うならばこのような本を満足に読んでいない脚本家は警察ドラマや刑事ドラマを書く資格がない、と言えるかも知れません(極論ですが)。この私(牢屋壮一)の意見について宇佐美先生はどのように思われるでしょうか?

 今回のコメントは以上です(牢屋壮一より)。
 
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