新橋(汐留)にある四季「海」劇場で、ミュージカル『アイーダ』を見てきました。本当は今、仕事がたまっていてそれどころではないのですが、もう数ヶ月も前に買っておいたチケットなので、無駄にしてはもったいないと思い、行ってきました。
御存知のように、ミュージカル『アイーダ』のもとになっているのは、ジョゼッペ・ヴェルディが作曲した19世紀後半のオペラ作品です。この作品をディズニーがブロードウェイ・ミュージカルとして2000年に上演しました。今回見たのは、そのディズニー・ミュージカルの日本版です。
舞台は古代エジプト。エジプトの将軍ラメダスによって捕虜となったアイーダは実はヌビア国(原作ではエチオピア)の国王の娘。しかし、敵国同士、将軍と奴隷でありながら、ラメダスとアイーダは愛し合うようになる、というのが基本の物語です。そこへ、ラメダスの婚約者であり、エジプト王の娘アムネリスがからみます。
私は小説を含む物語研究者なので、ミュージカルを見る場合にも俳優さんの演技力とか歌唱力よりも、物語の作り方の方に目がいきます。今回もオペラ原作の作品ということで、当然原作との差異が気になりました。
一番感じたのは、アイーダとラムネリスという二人の女性像。アイーダは原作以上に強い意志をもった主体的な女性として描かれています。また、アムネリスは原作では主人公の仇役の性格が強いのですが、ミュージカルでは、自分の愛する婚約者の心が他の女性に向いていることを知って苦悩する、きわめて人間的な女性として描かれています。
こうした女性像の改編は、『美女と野獣』のベルなどディズニー作品に共通する性格でもありますが、同時にまたディズニーに限らず、古い原作を現代的によみがえらせるためには不可欠の要素なのかもしれません。それだけ、時代によって大きく変わった女性の生き方と価値観だということがわかります。
ミュージカル版では、単純な三角関係ではなく、アイーダとアムネリスの間に奴隷と王女という階級を超えた友情とも言えるような深い理解(お互いに自分の責任と愛との葛藤に苦しむ点で共通する)を持つ、という描き方がされており、そこに人物関係の深みが感じられます。
オペラ版では、生き埋めになるラメダスの地下牢にアイーダがこっそり入り込んでいて二人で死ぬという結末ですが、ミュージカル版では、アムネリスが特別の計らいで王の決定をくつがえし、二人が共に死を迎えることを自ら取りはからいます。ここに、愛する者が他の女性との愛を選んだことを哀しみながらも、メダスとアイーダの愛を承認するアムネリスの苦悩が集約されており、予定調和的なディズニー作品の中ではかなり異質な結末になっていました。
音楽はエルトン・ジョンで、作詞は『エビータ』『ライオンキング』『アラジン』などのティム・ライス。エルトン・ジョン作曲のミュージカルと言えば、昨年ニューヨークで『ビリー・エリオット』を見ました。→ 「ブロードウェイで『ビリー・エリオット』を見る」
『ビリー・エリオット』はサッチャー時代のイギリスが舞台ですから、ロック調の音楽も合っていて良かったと思いましたが、古代エジプトを舞台とした作品にロックはちょっと好きになれませんでした。バラードのところはよかったです。
俳優さんたちはみな熱演でした。アイーダ役は濱田めぐみ、ラメダス役は阿久津陽一郎、アムネリス役は光川愛。3人の中では光川愛だけまだ実績が浅いようで、多少かたい印象のあるところもありましたが、最初に笑わせて、途中はしんみりさせて、最後に泣かせるという難しい役を見事に演じていたと感じました。
ディズニー作品にはそれほど期待していなかったのですが、思ったよりもいい舞台見ることができました。