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フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 私はテレビドラマ好きで、特に韓国ドラマはかなり見ています。これについては、これまでにもいろいろとブログに書いてきました。ほんの少し例を挙げれば次のようなものです。
   →
「韓国ドラマと視聴率」
   → 「韓国ドラマの仇役が好きだ」
 今見ているものもいろいろとあるのですが、その中でも 『ファン・ジニ』 (NHK)は意外に面白くて毎回見ていました。
 『ファン・ジニ』は、16世紀朝鮮王朝時代に実在した妓生(キーセン)を主人公とした物語です。妓生(キーセン)とは、日本の芸妓、または娼妓に近い存在でしょうか。宴会で歌舞を披露する芸妓で、時には性的な相手をも務めたようです。高い教養や技芸が必要とされた一方で、身分的には「」という被差別階級に属していました。
 このドラマはNHKで放送されていますが、放送前はあまり興味が持てませんでした。NHKのこの放送枠では、「冬のソナタ」「春のワルツ」などの韓国ドラマや中国ドラマ「北京バイオリン」なども放送されていましたが、私は「歴史もの」「妓生が主人公」ということで、あまり興味がなく、期待していませんでした。
 ところが、一度だけ見て、「面白くなかったらやめよう」と思っていたところ、結局毎回見ることになってしまいました。何故毎回見てしまうのだろうかと考えてみると、そこで一番感じることは、ドラマにこめられた「感情の濃さ」です。
 韓国ドラマを見ていて、多くの作品に感じることはこの「感情の濃さ」で、「恋愛感情」だけではなく、「嫉妬」とか「恨み」とか「復讐心」とか、そこに描かれる感情がいずれもみな「濃い」という印象を持ちます。韓国ドラマの後に日本のドラマを見ると、ときには「軽薄」にすら思えるほど、「軽い」ドラマに見えてしまうのです。
 そういう観点で見てみると、この『ファン・ジニ』はきわめて韓国ドラマの特徴が凝縮されており、そこに描かれる感情がいずれもみな濃すぎるほど「濃い」のです。
          
 先にも書いたように、ドラマは実在した妓生ファン・ジニ(妓生としての名はミョンウォル)を主人公として展開します。しかし、ミョンウォルの人生は順調には進みません。中でも大きな出来事は、ヤンバン(貴族階級)の青年ウノとの恋。ウノもチニも真剣に相手を恋い慕いますが、貴族であるヤンバンと被差別階級である妓生との真剣な恋愛は許されるはずもなく(娼妓としてならもちろん大丈夫なのですが)、周囲から無理矢理に引き離されます。そして、チニは死んだウノを愛し続け、同時にこの恋を引き裂いたものたちをいつまでもけっして許しません。つまり、「愛情」も「恨み」も「復讐心」も圧倒的に濃いという、韓国ドラマ特有の「感情の濃さ」がこのドラマには凝縮されているのです。
 くわえて重要な役割を果たすのは、チニの芸の師匠である行首(ヘンス=責任者のこと)ペンムです。ペンムは妓生としての技芸にまさに命を捧げた人物であり、チニを朝鮮最高の妓生にしようと自分のすべてを注ぎ込みます。このペンムの、「すべてを捨てて技芸を極める」という姿勢もまた、韓国ドラマ特有の「感情の濃さ」を見事にあらわしています。これはもう怖いくらいの執念です。
 しかし、他のすべてを犠牲にして技芸を極めさせようとするペンムと、ペンムによってウノとの恋を引き裂かれたチニの間には、大きな溝が生じることになります。ここにもまた、二人の激しい対立が起こり、そこからも「情の濃さ」が存分に描かれることになります。
 さらにドラマ後半では、妓生として国じゅうの評判となったミョンウォルをめぐって、ヤンバンたちが争うように登場します。そして、物語は最後まで「感情の濃さ」を前面に出して展開していくのであり、最後まで目が離せません。
 「どうしてもっと楽な生き方をしないのか…」と問うことは、おそらくもはや無意味なのでしょうか。「芸」と「恋」と「執念」とを生きようとする者たちの、並外れた生き方の壮絶さをこのドラマに見ることができます。
          
(この記事は3月2日に書いたものですが、アメリカ旅行記などを書いていたため、掲載が遅れました。)



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コメント
 
 
 
Unknown (SKinsui)
2009-04-12 23:27:10
我が家でも「ファン・ジニ」楽しく見ております。ところで韓国人の知人に聞いたのですが、「ファン・ジニ」と「チャングム」は同じ時代の話だそうですね。というより、出てくる王様が同じなんだとか!そういう歴史的背景が分かると、一層楽しめるのだろうと思いました。
 
 
 
SKinsuiさん、ありがとう (宇佐美)
2009-04-15 00:03:23
SKinsuiさん、コメントありがとうございます。
「ファン・ジニ」と「チャングム」の王様は同じ人なんですか!
どちらの主人公も、当時の女性の枠には収まりきれない生き方をした女性ですから、時代背景とか王の性格とか、何か関係があったのかもしれませんね。そういう歴史的背景も勉強した上で、これから歴史ドラマを見てみたいと思います。
     
 
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