フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 1~3月期のテレビドラマについては、以前にこのブログに簡単な感想を書きました。ただ、それは1~2回見ただけの印象だったので、その後見続けてみると、ずいぶん印象が変わる作品がありました。
 その代表は『天国と地獄』です。初回を見ただけの段階では、正直何をしたいのかよくわかりませんでした。このブログには「数々の名作ドラマを放送したTBS日曜劇場が、しかも数々のヒューマニティあふれる脚本を書いてきた森下佳子が、使い古された単なる入れ替わりものを制作するはずがありません。」と書きましたが、見続けてきてようやく作品の雰囲気、テイストのようなものが理解できてきました。SF要素やユーモラスな要素もありながら、数奇な運命に翻弄される人たちのそれぞれの懸命な姿が描かれています。森下佳子の脚本の根底にあるのはヒューマニティだと私は考えていますが、それでも原作のある作品では、『白夜行』のようなミステリー要素や、『仁―JIN』のようなSF要素も描いてきています。その意味では、森下脚本の重要な要素が総動員されているのが、この『天国と地獄』という作品だという印象を強くしました。

 もうひとつ印象が変わったのは『知ってるワイフ』です。以前のこのブログでは、初回は「重苦しい」し、「タイトルで損をしている」と書きました(タイトルは原作を尊重しているので仕方ないですが)。しかし、見続けているうちに、脚本の橋部敦子の特徴が前面に出てきた気がします。橋部敦子といえば、『僕の生きる道』という著名なドラマシリーズを手がけていますし、私は橋部の作品の中で『遅咲きのヒマワリ』を特に高く評価してきました。人の生き方について誰よりも深く考えさせるという橋部の作風が、次第に表面に出てきていると感じます。『天国と地獄』同様に、あり得ない出来事に戸惑いながらも、その事象を通じて自分の生き方を問い直す人間の姿が、回を追うごとに深く追究されていきます。逆に言うと、タイトルと事前広報の少なさと初回の雰囲気で損をして、せっかくの良作が多くの視聴者に見てもらえなかったのではないか、とたいへん残念に思います。見続けていてようやく良さの出てくる作品なので、最初から見ない、あるいは初回で脱落してしまった視聴者が多いのではないかと感じました。



※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。




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