フィクションのチカラ(中央大学教授・宇佐美毅のブログ)
テレビドラマ・映画・演劇など、フィクション世界への感想や、その他日々考えたことなどを掲載しています。
 



 4月から6月にかけてのクールのテレビドラマも、もう2~3回ずつ放送されました。先週まで2週にわたってコメントを書いたので、今週は深夜ドラマを中心に感想を書きます。数字は初回視聴率(ビデオリサーチ社、関東地区)です。


ブラックペアン  (TBS系、日曜21時) 13.7%

 深夜ドラマではありませんが、先週のコメントに間に合わなかったので今回書きます。まだ初回しか放送されていませんが(第2回は今日この後の時間に放送)、迫力は感じました。医療ものの王道である、患者の生死をめぐる医師たちの必死の姿は、この作品にも描かれています。ただ、それだけに、王道すぎるところは感じます。病院同士の権威争い、病院内部の権力関係、そこに与しない一匹狼の天才外科医、緊迫した手術シーン…等々。これらの要素は、医療ドラマに重要なだけに、多くのドラマに共通していて新しさはありません。
 そこで大切なのはそれらを演じるキャラクター。今回は、傲慢で命を金で買うような天才外科医を演じるのが二宮和也。「ニノ」は童顔で、「いい人」キャラを演じることが多いタレント。それをあえてこの役に起用したことに意図を感じるのは確かですが、初回ではまだ馴染めません。普段は「いい人」そうに見えて実は…というなら二宮に適役だと思うのですが、見るからに傲慢な天才外科医には見えません。見続けたらどうなるか、第2回以降に期待したいと思います。


おっさんずラブ  (テレビ朝日系、土曜23時15分) 2.9%

 Boy's Love は、今やマンガなどで頻繁に扱われるテーマですが、テレビでは、これまであまり扱われませんでした。テレビは、マンガなどよりはるかに多くの人びとに受容されるメディアで、その分だけ、多くの人びとに許容されるテーマでなければいけません。その意味で、男性同性愛は、ドラマドラマの脇の方に少し扱うのがせいぜいだったのです。それを、23時以降の枠とはいえ、テレビで真正面から扱うのは冒険です。しかもマンガなどによくある「美少年」ものではなく、20代から50代までの中高年を含む年代で描くのですから、インパクトはかなりあります。
 そこから考えさせられることはたくさんあります。たとえば、ドラマの中でレズビアンは性的興味の対象としてしばしば描かれます。一方でゲイはお笑いの対象にされます。このことはテレビのヴァラエティ番組にもいえます。おねえキャラのタレントは今や数え切れないほど出演していますが、レズビアンを公言したタレントはほとんどいません。年齢、性別によってこれほど扱いが変わること。そのことは、性をめぐる現実の問題として考えないといけない重要な課題です。このドラマは、そういう風潮に一石を投じることになりそうです。


命売ります(テレビ東京系、火曜深夜)

 三島由紀夫小説のテレビドラマ化。三島の有名作品、映画化作品は多々あります。そのような映像化向きの作品が多い中でこの作品の映像化は意外ですが、近年この作品への注目が高まっていることが背景にあるのでしょう。だとしても、次々に意外なことをやってくる、テレビ東京深夜枠ならではの大胆な企画かもしれません。小説家としての三島には、観念的、哲学的な作品からかなり通俗的な作品まであり、この作品は後者と見られています。しかし、「命の使い方」というのは三島の最重要課題でもありますから、通俗の根底には深い思想がこめられています。テレビドラマ版の後半は小説にないオリジナル部分だそうですが、三島由紀夫の課題をどのように引き継いでいるのかが見どころです。

 グッドモーニング・コール2 (フジテレビ系、水曜深夜) 

 タイトルからわかるように、人気作品の続編。菜緒と上原が大学生になってからを描きます。高須賀由枝の原作マンガではそこまで描かれていないので、ここからはテレビドラマ版オリジナルになります。それでも、理想の「王子様と普通の女の子」という少女マンガのテイストは変わりません。私には興味の持てない世界なので、すみません。どうぞ、がんばってください。


いつまでも白い羽根 (フジテレビ系、土曜深夜) 

 原作は藤岡陽子の同名小説。志望大学の受験に失敗して、看護学校生となった瑠美(新川優愛)。はじめは気が進まず、大学を受験し直そうと思い、苦労をしながらも、次第に看護の仕事に取り組んでいく話。体験しているうちにその仕事の大切さを知っていく、というのはありがちな話で新鮮味はありませんが、個々の場面、出来事がよく出来ているので、訴えるものはあります。そういえば、フジテレビのこの枠は『さくらの親子丼』などが放送された時間帯。奇をてらわない、真面目で良心的な作品が多く、人気取りに走らない姿勢には共感できます。



宮本から君へ(テレビ東京系、土曜深夜) 

 新井英樹のマンガ作品のテレビドラマ化。大学を卒業して文房具メーカーに就職したものの、仕事にも恋愛にも不器用な宮本(池松壮亮)。「等身大」という言葉は世間で安易に頻繁に使われていますが、正にそういう身近なサラリーマン像を描いています。それでも、マンガやドラマですから、電車で見かけた女性を毎日待っていて、さらにはその女性と交際するようになるなど、「こりゃないわ」と思うような話は出てきます。それでも、全体の雰囲気は、あまりにも普通のサラリーマンの普通の日常。あまりテレビ向きとは思えません。そのテレビ向きではない地味な題材を描くことは、次々に面白い企画をやってくるテレビ東京深夜枠にすれば、これもまた一つの挑戦なのかもしれません。


※このブログはできるだけ週1回(なるべく土日)の更新を心がけています。



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