3月11日の東日本大震災により、職場(8階建)の外壁の一部が崩壊、
場所を移しての勤務が6月24日まで続いていた。
この間、通勤ルート変更を余儀なくされたものの、その出勤途上で、
2つの思わぬ貴重な体験をすることが出来た。
ひとつは、前回のブログで掲載した石仏のお話しと、笑顔の素敵な
おばあさんと出会ったことである。
出勤途上、足元を確認するかのように、ゆっくりとした足取りで散歩する
年老いたおばあさんと、毎朝、木陰で立話しをするようになったのだ。
いつも同じ時間、同じ場所での立ち話しのひと時は、とても楽しく、
大変癒された。
初めてこちらから声を掛けたのは、「おはようございます。良い天気ですね」
次の日が「おはようございます。お元気ですね」だったかと思う。
お歳は、大正14年生まれで86歳とのこと。
散歩するのは健康維持のためで、子供達に迷惑を掛けたくないからという
お話しに親心が感じ取れた。
おばあさんは、よく笑いますねと話し掛けると、「そうなんです。よく言わ
れるんですよ。笑いはいいですよね」の言葉に、「そうですよね、笑いは
百薬の長といいますから」と念を押させていただいた。
笑顔がとても素敵なおばあさんである。
地震のこと、愛犬のこと、早起きであることなどなど、いろいろ話しを
してくれるおばあさんに、いつの日か母の面影と重ねている自分がいた。
元の勤務場所に戻る日が確定した時、劣悪な環境から開放されるという
安堵感と、おばあさんともう逢えなくなるという淋しさから、複雑な心境
であったことを覚えている。
長い梅雨に入る前日、紐で結んだ手作りの「菊花結び」「箸置き」と
走り書きの感謝の手紙を手渡した。「私も毎日とても楽しみにしていました」と
振り返りながら会釈するお顔に笑顔はなかった。
ゆっくりとした足取りで歩き出す後ろ姿に、思わず熱いものが込み上げてきた。
いつまでも、お元気で散歩を続けられることを祈りたい。