我家の庭によく遊びに来るつがいのキジバト(ヤマバト)。
先日、そのうちの一羽が背中に大きな傷を負って
蹲(つくばい)のそばでじっとしていた。
おそらく、野良猫にでも襲われ必死に逃げたのだろう、
背中の羽がむしり取られて、裂かれたような傷からは、
出血の跡が見えていた。
いつものようにエサをまいてやると、お腹を空かしていた
のだろうか夢中で食べていた。
一日中庭先で、水を飲んだり、エサを食べたりしながら
静かに傷を癒していたが、夕方近くの雑木林に戻った。
飛ぶのもままならぬ様子だっただけに心配していたが
もう大丈夫だと安堵した。
翌朝、驚いたことに、あの傷ついたヤマバトが
庭先でまたじっとしていたのだ。
それに、昨日とは明らかに違って、かなり衰弱している
様子だった。
急いで、水とエサを準備してやったが昨日のように
口にしようとはしなかった。
そんな様子を見守っていると、おそらくつがいの
もう一方のキジバトだろう、我家を中心に廻るように
東西南北の方角で鳴き出した。
不思議なことに、その鳴き声が止むと同時に、
傷ついたヤマバトは、力尽きたかのように、
もたげていた首をうな垂れてしまった。
急ぎ、くちばしに水を二、三滴含ませてやると、
くちばしを弱々しく小刻みに動かしながら呑み込んで
いたが、間もなくして午前9時00分、眠るように
静かに息をひきとった。
今思うに家の周りを鳴きまわっていたその声は、
衰弱したつがいの一方を励ましているようでもあり、
別れを告げていたようでもあった。
それにしても、衰弱しているにもかかわらず、
何故、今朝また庭に来たのだろう、お別れの挨拶に
わざわざ来てくれたのだろうか。
横たわったそのむくろが小さく見え、胸が締め付けられる
思いで、近くの雑木林に穴を掘り手厚く葬った。