音楽は語るなかれ

音楽に関する戯れ言です。

野獣生誕 (エアロスミス/1973年)

2010-09-25 | ロック (アメリカ)


1974年頃からクイーンが日本で大ヒットしたのをきっかけに、日本でも徐々に英米のロックミュージシャンがクローズアップされるようになった。イギリスではパッド・カンパニー、そしてアメリカからはキッスとエアロスミスがすぐに輸入された。特に、その中でも、後々のへヴィ・メタに繋がる要素を持っていたエアロスミスは、当時は特に女性より男性に圧倒的な人気があるバンドであった。

エアロが日本で紹介された際に、なぜか、ストーンズ二世的な扱いをされた。多分、ヴォーカルのスティーヴン・タイラーがどことなくミック・ジャガーに似ていなくもなかったというのと、クイーンがビートルズを継ぐもの的な過大評価をされたのとオーバーラップされたのだと思う。しかし、彼らのサウンドを聴いていれば良く分かるように基本的にガンガン飛ばしているハード・ロックが多いものの、曲調は自分たちでも言っているようにビートルズに影響されていて、その辺りについてはクイーンの比ではない。このアルバムは彼らのデビューアルバムであるが、既に本国では3枚のアルバムが発売になっており、この辺りの日本発売の順番は可なりいい加減だった。しかし、エアロスミスはおしなべて実に質の高いアルバムを作っている中において、確かに完成度は「ロックス」や「ドロー・ザ・ライン」の方が高いが、なぜか私はこのデビューアルバムが彼らの作品の中では一番聴きこんだし、一番好きである。まずは、何といっても彼らの代表曲である「ドリーム・オン」は、最初にアメリカで発表したときにはトップ100にも入らなかった。兎に角、デビュー当初の評価は低く、チープなツェッペリンコピーパンドと揶揄されたり、前述の通り音楽性が全く違うのにストーンズの物真似バンドと馬鹿にされたりして来た。だからこのアルバムは全く評価の対象にならなかったが、セカンドアルバムを出し、地道なライヴ活動をこなしていく中で徐々に人気になってきて、アルバムも上々、「ドリーム・オン」はシングルカットされて3年後に全米6位まで上がる大ヒットとなり、なんとか契約打ち切りを免れた逸話は有名である。確かにこのアルバムを改めて聴くと、録音の質は低いし、演奏も生っぽさは良いのだが、逆に素人バンドの様な安っぽい音にも聴こえる個所が随所にある。だが、「ムーヴィン・アウト」などは、逆にその素人っぽさがとても新鮮で、お金のないハードロックバンドが一緒懸命作った最初の作品という感じが出ているのは面白いし、結構アマチュアバンドでもやってみようと思ってしまうからおかしいが、結構この曲のツインリードとヴォーカルとのユニゾンは素人技ではないことが分かる。「ママキン」などは、スティーヴンお宝の曲らしく、当時彼はタトゥーまで入れてこの曲のアピールに努めた。全体が35分と短いし、聴き応えがあるかというと、そうではなく逆に何度も聴いてしまう(かといって物凄く良いというのではない)、何か、短い感動が繋がって、また繋がってという感じで、だからアルバムが終わると繋がりが途絶えてしまうのでまた聴こうと思う、そんな不思議な中毒性のあるアルバムなのである。

エアロは何処か不良っぽかった。尤もロックン・ロールは、「ドラッグ、アルコール、セックス」色が濃い音楽であるが、逆にこの頃になるとそうではなくて、徐々にファッショナブルなものへと変化しつつあり、風貌は不良っぽくても音楽はとても優しいキッスなどがそのファッショナブルの先端を行っていたから、自ずとそれまでのロックファンを全部引き受ける役割を受け持ったのかもしれない。そしてまた、この時代に21世紀のエアロなんて全く想像が出来なかったのも事実である。兎に角、癖になってしまうアルバムなので、実はもう20年くらい封印して聴いていないのである。


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