すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

滑落(木曽駒ケ岳ー続き)

2022-07-06 17:46:23 | 山歩き

(6/30)今日の記事は、実はかなり書きにくい・・・それに、ぼく自身、木曽駒の話題はもう切り上げたい(飽きた)。でもまだ少し、書いておかなければならないことがある。
濃ヶ池付近から見上げる乗越浄土。お椀型の中央にちょこっと尖っているのが、宝剣岳。そのすぐ右の(小さすぎて見えないだろうけど)青い点が宝剣山荘。赤い点は天狗荘。あそこから右手の稜線をたどってここまで来た。ここから、こんどは雪渓をいくつも越えて山腹を戻って行かなければならない。あそこまで2時間半くらいか?
 駒ケ岳の山頂まではゆるやかな道だ。途中、中岳の南斜面には高山植物がけっこう咲いている。いったん「駒ケ岳頂上山荘」まで下る。山荘は開業は明日からだが、テント場にはすでにテントがいくつか。ゆるやかに木曽駒に登り返す。ライチョウ保護の人があっさり追い越してゆく。
駒ケ岳山頂の神社。伊那側と木曽側の二つの神社が少し離れててんでの方向を向いて建てられている。石を積み上げるだけで大変な労力だろうに、信仰とは不思議な、おかしなものだ。
 ここから北東に、馬の背の稜線を下ってゆく。45年前には軽々と登った道を、喘ぎながら下っていく。森林限界を超えているので展望絶景だが、真上からの日光がきつい。「こんなに遠かったっけ?」と思いながら進む。そう感じるのは体力が落ちているせいだ。右下に濃ヶ池が見えてほっとする。が、そちらに入る分岐点までがまた遠い。ハイマツの小さな日陰に体を丸めて休みながら、けっこう山頂から2時間近く掛かってしまった。
 さて、ここからが問題だ。出発するとき小屋のお姉さんに道の状況を訊いた。「雪渓がいくつかあってトラバース(横断)しなければなりません」「チェーンスパイクとストックは持っているのですが」「それなら大丈夫でしょう。でも気を付けて行ってくださいね。滑ると、かなり下のガレ場まで落ちることになりますから」「わかりました。様子を見て引き返すかどうか判断します。ありがとう」。それでここまで考え考え歩いてきた。とりあえず池までは行く。それからどうするか?
 分岐からの道はほぼ水平で、森林限界の下に入ったのでいちおう日陰で涼しい。(冒頭の写真はこのあたり。)雪の重みで曲がったダケカンバが新緑と言うよりはまだ芽吹いて間もない柔らかな緑で、道に頼りない日陰を作る。それに混じってタカネザクラが遠慮がちに下を向いた花を咲かせている。濃ヶ池は中央アルプスでただ一つの氷河湖なのだそうだ。今は雪渓が流れ込んで半分埋まっている。ただ、近年どんどん乾燥化が進んで小さくなっているらしい。
濃ヶ池。道は雪渓と水面との境を通っている。
 さて、行くか戻るか判断しなければならない。今来た尾根道を引き返すのは、すでに(ここで10:00)気温が上がっているからかなりしんどい。雪渓がどんな様子だか見てみたくもある。だが、行ってみて渡れそうもないから引き返す、というのはさらに大変になる。迷ったが、冒険心が勝った。
  池に続く湿地帯を越えて間もなく、最初の雪渓。これは幅は狭い。雪渓は登ったり下ったりは怖くないが、トラバースするのは相当怖い。左右の斜面にストックを突き刺し、踏み跡があるから正確に足を載せて、一歩一歩チェーンスパイクを踏み込んで確かめてから進む。だがここ数日間の暑さで雪が融けてシャーベット状になっている。何回か踏み込んでも滑りそうになる。スパイクが効きづらい。渡る間息をつめて緊張している。一つ目を渡って、「うん、これならなんとか行けそうだ」と思った。
最初の雪渓を渡ってから振り返る。
 雪渓は、下のガレ場まで落差の相当あるもの、下が枯れた藪のもの、頭上が恐ろしげな岩のもの、など色々。幅はだんだん広くなった。6つ目が、かなり広くて急だった。「まだあるのかよー」と思った。渡り終える手前に、誰かが滑落した跡があった。それをまたいで左足を出した瞬間に、大きく開いた足が滑った。
 あっ、という間に滑落していた。「やっちゃった!」と思った。ストックで必死に制動をかけようとしたが(飯豊の石コロビ雪渓でピッケルで止めたことはあるが)、ストックでは止まらない。ただ、落下速度はある程度は抑えられたことと思う。落ちて行く先がちらりと見えた。岩や藪ではなく、草地だ。そのままずるずると落ちて、枯草の上に放り出された。左の腰とあばら骨を打ちつけた。
 呻きながら立ち上がり、体についた雪と枯草と土を払った。幸い、体は動く。どこも折れたり切ったりはしていないようだ。30mほど落ちた。距離が短くて、岩でなくて助かった。雪渓の脇の急斜面を、登山道まで喘ぎながら登り返した。
手前がぼくの滑った跡。
 そのあともう一つ、もっと幅の広いのがあったが、もう渡る気になれず、下まで降りて向う側を登ることにした。降りたところに、登山道の消えかかった古いペンキのマークが上に向かっていた。地図で難路を示す破線になっている、沢沿いに登ってくる長いコースだ。元の登山道と合流し、道はさらにぐんぐん登って行く。左手にもう一つ、今までで一番急峻な雪渓があって、「あそこは渡れないぞ。どうする?」と思っていたが、それもハシゴで高巻いていて、ほっとした。またライチョウ保護の人に出会った。「サルが上がってこないように監視しています」と言う。その上は「駒飼ノ池」。前方に天狗荘が近い。あと40分ぐらいだ。
 ここでゆっくり休んでお昼を食べ、乗越浄土に登り返して千畳敷に下った。大きな荷物を担いで八丁坂を登ってくる若い人がいっぱいいた。頂上山荘前にテントを張って7月1日のご来光を迎えようという人たちだ。老人は一足先に山を下る。

反省点:①若い頃とは全然違うということを、もう一度頭に叩き込むべきだ。今回のはファミリーコースのはずだが、そう思ってかかってはいけない。
②危険個所を通過しきるまでは、一瞬でも気を抜いたり気を逸らしたりしてはいけない。
③チェーンスパイクは便利だが、歯が浅いので、雪渓のトラバースはアイゼンでしたほうが良い。
④ヘルメットを携行したほうが良い。
⑤ぼくはそろそろ、単独行ではなく誰かと登るようにした方が安全だ。

 (今6日目。脇腹の打撲はまだちょっと痛い。念のため医者に行った。ひびが入ったりはしていないそうだ。長文を読んでくださってありがとうございます。)

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする