すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

木曽駒ケ岳

2022-07-04 21:42:36 | 山歩き

 (6/29)木曾駒には昔2回行ったことがある。30歳前後、ほぼ45年前だ。一回は友人と2人で、伊那側の麓の桂小場から登って南に縦走し、空木岳から東に池山尾根を駒ヶ根に下った。二回目もほぼ同じコースだが、ソロで、西に木曽側に下った。体力が一番有った時期だ。稜線上でいくらでも登山客を追い抜けるのが楽しかった。今回は、行きも帰りも2600mまでロープウエイを利用するファミリーコース。それでも、今の体力ではかなりきつい。
 昔の山の旅の名著などを読んでいると、今ではすっかり変わってしまって昔のような味わい深い旅は不可能だ、というように思うが、まあ、バス路線が発達し、ロープウエイができ、小屋が整備されたおかげでぼくのような老人でも標高3000mを楽しむことができるようになったのも事実だ。
 千畳敷は高山植物と紅葉で名高い場所だが、ここから登るのは初めてだ。昔は「あそこから登るなんて」、と馬鹿にしていたのだ。いま、老いた体を一歩一歩持ち上げていくと、ここがいかに美しい場所なのかが良く分かる。見向きもしないで登山客を追い抜いて行った自分の心の無さが良く分かる。それだけでも、歳を取るのは悪いことじゃない。
 ロープウエイを降りてまだ雪の残る道を20分ほど歩くと、「八丁坂」と呼ばれる急登が始まる。登山道のすぐ脇を雪渓が伸びている。「あっちを直登したら気持ち良いだろうな」と思うが、たぶんここ数日の暑さで雪がぐずぐずになっているだろう。
急登の途中、「オットセイ岩」を横にみるあたりから、高山植物が現れた。まだ無理かな?とあまり期待していなかったので、うれしい。

急斜面の途中、ロープウエイ千畳敷駅を振り返る。左手がオットセイ岩。
そのアップ。右側の,いつ剥がれ落ちてもおかしくなさそうな岩の下を登山道が上がっている。
 急登が始まってから今のぼくの足で1時間ほどで稜線の「乗越浄土」だ。涼しい風が吹いて、すぐ左手に今夜泊まる「宝剣山荘」が見える。受付を済ませ、部屋に荷物を置いて宝剣岳に向かう。ほんの30分ほどだが、慎重に登らなければならない困難な岩場だ。
宝剣の岩場の核心部
 両手両足を使って三点支持で岩場を登るのは好きだ。今はかなり悪くなっているが、体に関して唯一ぼくが自信を持てたのはバランス感覚だった(大学時代、文学部の4階建ての本館の屋上の手すりの上を一周したら1000円、という賭けをして勝ったことがある)。要所要所には鎖が張られているが、若い頃からなるべくクサリには捉まらないで登ることにしている(ハシゴは無理)。もちろん、フリークライミングとか岩登りをしていたわけではないから一般登山道での話だし、捉まらなければ無理なところはある。槍ヶ岳から前穂高岳まで縦走したことがあるが、一回だけクサリに頼らなければ越えられないところがあった。
 歳とってバランスが悪くなった今は、岩場よりもむしろ、足だけで歩く痩せ尾根の下りが怖い。疲れて足がもつれたり躓いたりしたら転落しそうな場所はある(例えば八ヶ岳の阿弥陀岳からの下り)。岩場はむしろ安心で、怖さよりは喜びの方がずっと大きい。
宝剣岳山頂
山頂から見る三ノ沢岳。高山植物の宝庫の静かな山だという。縦走路から外れた孤高の雰囲気が良い。
空木岳に続く縦走路。45年前はあれを越えて降りた。
 山頂で展望を楽しみながらおにぎりを食べた。南アルプスの連嶺の向こうに富士山。八ヶ岳。奥秩父。北アルプスは残念ながら雲の中。写真を撮ったが、ぼくの腕では、遠く何が何だかわからないものになってしまったので、ここに載せるのはやめておく。
 小屋に戻って、まだ早いので伊那前岳方向に行ってみる。だが、遥か前方に赤いジャケットを着た人が3人いて、近付いたら止められた。ライチョウの親と孵ったばかりのヒナを保護のためにケージに向かって誘導しているという。遠くから眺めるだけにした。
 ライチョウは中央アルプスでは一度絶滅したのだが、近年乗鞍岳から移住させるプロジェクトが始まり、はじめのうちはヒナがかえってもテンなどに襲われて生き残ることができなかった、のだが、今では生まれてから1カ月ほどケージで保護することにして少しずつ生息数と場所が増えているのだそうだ。大変な活動だが、ぜひ成功してほしい。
ライチョウをケージに誘導する作業中の人たち
 宝剣山荘は夏場には満員になる小屋らしいが、今夜は8人だけ。そのうち6人はライチョウ保護活動の人であと1人は新聞社の取材の人。一般客はぼく1人だけ。布団が新しくきれいでフカフカでうれしい。くたびれて星空も見ないで熟睡した。(続く)

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