すべての頂の上に安らぎあり

今日はぼくに残された人生の最初の一日。ぼくは、そしてぼくたちは、この困難と混乱の社会の中で、残りの人生をどう生きるか?

「獄中からの手紙」

2019-06-04 21:37:48 | 読書の楽しみ
 友人に勧められていた、ローザ・ルクセンブルグの「獄中からの手紙」を読んだ。
 驚嘆した。
 ぼくはローザの政治的・経済的思想について、何も知らない。だからそれが現在でも有効な思想であるか、もちろんわからない。彼女が武力による革命を容認していたとすれば、第一次世界大戦に対する反戦活動と、明らかに矛盾するだろう。
 だが、幼友達に宛てて書かれたこの書簡集には、彼女の思想についてはひと言も出てこない。そこにあるのは、夫を逮捕されて嘆き困惑している友達に対する、心からの思いやりの言葉。友と一緒に過ごした懐かしい時、出所後に共に過ごすであろう時へのあこがれ。
 それから、自然に対する深い知識と愛情。そして読書、とくにゲーテをはじめとする文学作品に対する愛着。
 ぼくが驚嘆したのは特に、自然に対するこの深い愛だ。
 彼女は、牢獄の庭で目にする花々や樹々、庭にやってくる、あるいは塀越しに聞こえる鳥たちの鳴き声について驚くべき知識で語る。この知識は、自然に対する深い愛情があり、それについて知ろうとする意志と日常的な習慣がなければ身につかないものだ。どれほど彼女が、闘争と研究の日々の中で、小さな生き物たちに共感を寄せていたかが良くわかる。
 そしてこの共感の心が、当然、人間に、とくに、弱い立場の貧しい人々たちにも向けられていたからこそ、彼女の思想と闘争もあったのだろうことが、よくわかる。
 人間への、自然への、深い共感がなければ、政治によって、経済によって、宗教によって、科学技術によって、より良い世の中を作り上げようとするいかなる試みも、無残な社会にしか行きつかない。
 そのことをぼくらはすでに知っているはずだが、今一度、肝に銘じておこう。
 ごく薄い岩波文庫の一冊で、山に行くときに電車の中で読む本がまたひとつ増えた。
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