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今日の筆洗

2022年03月08日 | Weblog
鉄道ミステリー小説の最初はホームズシリーズで知られる英作家のコナン・ドイルが書いた『消えた臨急』(一八九八年)という作品だそうだ。臨時列車が乗客、乗務員ごと消える▼以来、鉄道を使った数々のミステリーが生まれる。アガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』、松本清張の『点と線』。列車という限られた空間、時刻表のトリックなど鉄道とミステリーは相性がいいのだろう▼推理作家は同じトリックを二度と使わないそうだから書き上げた六百本近い作品のすごさが分かる。作家の西村京太郎さんが亡くなった。九十一歳▼『寝台特急(ブルートレイン)殺人事件』『終着駅(ターミナル)殺人事件』。トリックや筋のおもしろさに加え、その作品には独特な旅情があった。昭和の会社員は出張前、駅の売店にあった西村さんのカッパ・ノベルスについ手を伸ばしたものだが、つかの間、旅の気分を味わいたかったのかもしれぬ▼清張さんの『点と線』を読み、これなら自分にもとこの道を選んだが、売れるまでは時間がかかった。五十近くになって、編集者の勧めで鉄道ミステリーへと舵(かじ)を切ったが、もともとは鉄道ファンではなかったらしい▼時代も変わり、『寝台特急殺人事件』の特急「はやぶさ」などのブルートレインも消えた。コロナ禍で鉄道旅行さえためらわれる寂しい時代に、その人と十津川警部を乗せた最終列車は旅立った。
 

 


今日の筆洗

2022年03月07日 | Weblog

小学校を卒業するときに六年間の思い出を作文にするようにと先生から課題が出たそうだ。ほとんどの級友が原稿用紙、数枚にまとめただけだったが、ある男の子だけは何十枚も思い出を書き連ね、数々の挿絵も加えた▼転校した学校で田舎者とからかわれたこと、勉強をがんばり、級長になれたこと。林間学校で自然を満喫したこと。それを手作りで製本し、表紙にはタイトルを描き、目次まで付けた。男の子は作家になった。『だるまちゃん』シリーズなどの絵本作家、かこさとしさんである▼そろそろ卒業シーズンだろう。たくさんの思い出を抱えて学び舎(や)を後にしていく。めでたき門出にもちょっとだけ気になるのは子どもたちの思い出の量のことか▼既に二年以上続く新型コロナウイルスの流行で休校や学校行事の中止、縮小ということもあったはずだ。友だちと触れ合う機会も減っていただろう▼<あんなこと こんなことあったでしょう>。卒園式でよく聞く「思い出のアルバム」にそんな歌詞があった。コロナ禍で「あんなことこんなこと」が奪われてしまった子どもたちに同情する▼行事は減ったかもしれないが、不自由な学校生活の中で、がんばった子どもたちである。コロナの困難にも、たとえば、励まし合い、助け合ったような出来事もたくさんあったはずだと信じている。それは特別で大切な思い出になる。


今日の筆洗

2022年03月05日 | Weblog
ウクライナのキエフ出身で、翻訳などの仕事をする女性オリガ・ホメンコさんの日本語のエッセー集『ウクライナから愛をこめて』。一九八六年のチェルノブイリ原発事故の記憶も書かれている▼著者は当時、中学生。キエフは現場から百キロ以上あるが、ラジオの声は帰宅後は靴を洗い、建物の窓は全て閉めるよう促したという。やがて親と離れ、原発と反対方向の保養地に学校ごと列車で避難。「子どもばかりの汽車だったのでちょっと不思議な感じだった」と記す▼ロシアとの戦いのために出国できない十八〜六十歳の男性を残し、女性と子どもが列車などで逃げる今のウクライナ。南部のザポロジエ原発をロシア軍が攻撃し、占拠した。惨事を招きかねない蛮行である▼チェルノブイリ原発もロシア軍の手に落ちたが、職員は留め置かれている。休息が不十分で疲弊し、安全が懸念されていると米メディアが伝えている。ロシアのプーチン大統領が放射能の怖さを知らないとは思えぬが、指揮下にある軍の行動は理解に苦しむ▼オリガさんの中学時代の避難は三カ月で終わった。エッセーにこうある。「どれだけ嬉しかったか! また両親と一緒に家に住めるし、好きな学校にもいけるし、みんなで授業を受けられるし−」▼プーチン氏には、家を出た人々がすぐに帰れるよう切にお願いしたい。遠征の続くロシア兵も含めて。
 

 


今日の筆洗

2022年03月01日 | Weblog
ウソをつくと鼻がニョキニョキと伸びてしまうのはピノキオだったが、人間にもやはりウソをつくことで悪い影響が出るらしい▼分からぬ話ではないだろう。事実と異なることを誰かに告げるのは大きなストレスであり、それは心ばかりではなく身体の不調にもつながる。米国の研究などではウソが重い疾病を引き起こす可能性も指摘されているそうだ▼とすれば、この人の心と身体が心配にもなってくる。西側の非難にも耳を貸さず、ウクライナ侵攻を続けるロシアのプーチン大統領である。この数日間、この大統領とその周辺からいったい、いくつのウソが発せられたことか▼いわくウクライナはナチ化しており、集団殺りくを行っている。いわくウクライナの大統領は薬物中毒者で、自分の身を人間の盾で守っている。いわくこれは戦争や侵攻ではなく特殊軍事作戦だ−。数えきれぬ▼攻撃目標は軍事施設というのもやはりウソで、キエフでは民間施設やアパートなども砲撃されている▼西側の非難と制裁に腹を立てたプーチン大統領はついには「核抑止力部隊」を厳戒態勢に移すよう命じた。核使用をちらつかせ、西側をひるませる狙いかもしれぬが、万が一にもそれを使えば、待っているのは口にもしたくない結末だろう▼冷静で正しい判断ができるようプーチン大統領の心身の健康を祈るとしよう。その人のためではない。