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今日の筆洗

2020年07月22日 | Weblog

 二頭の犬が話し合っていたそうだ。主な議題は犬の友情や善意について。意気投合した二頭は終生の友情を誓い合った。ああ、心の友よ▼まさにその時、料理人が台所から何かの骨を一本、犬たちに向かって放り投げた。たちまち二頭は骨を奪い合い、取っ組み合いになった。ロシアのクルイロフの寓話(ぐうわ)。友情、協調と言っていても目の前に骨が放り投げられれば、どうなるかは分からない▼気の重い寓話を思い出したのは実はある朗報からである。英国のオックスフォード大学と英製薬大手のアストラゼネカが開発している新型コロナウイルスのワクチン。初期の臨床試験の結果、被験者の免疫力を大幅に高める効果が認められたという。人体への深刻な影響もなかったという▼事実なら大きな前進だろう。少しほっとする一方で心配性はそれが目の前に放り出される一本の骨にならないかをおそれる。ワクチンをめぐる争奪戦である▼実はもう始まっているのかもしれない。目ざとい国は開発資金を提供するなどの形で既に「先行予約」している。先のオックスフォード大のワクチンで言えば英国は一億回分、米国もかなりの量を既に確保しているという報道もある▼わが国はどうも動きが鈍かったようである。無論、二頭の犬のようにわれ先にのあさましい振る舞いはしたくない。が、ぼんやりしすぎでも国民はやきもきする。


今日の筆洗

2020年07月20日 | Weblog

相手投手の投球に集中している打者に捕手がマスク越しに妙なことをささやく。「オクサンハオゲンキデスカ」「スタンドニベッピンイマスネ」▼打者の打ち気をそらす捕手のささやき戦術は二月に亡くなった野村克也さんの「専売特許」と思っていたが、この捕手の方が先だったようだ。しかも米国出身の外国人選手である。戦前、名古屋軍(中日ドラゴンズの前身)、イーグルスで活躍したバッキー・ハリス。一九三五(昭和十)年来日の日本プロ野球の外国人選手第一号は捕手だった▼三七年秋のシーズンには最高殊勲選手に輝き、翌年春は本塁打王。毎年大勢の外国人選手が入団するが、捕手として成功する例は極めてまれで言葉の壁が投手やベンチとの意思疎通を難しくする▼ハリスからおよそ九十年。外国人捕手として、期待できそうな選手がようやく現れたか。今シーズン一軍デビューを果たしたキューバ出身のアリエル・マルティネス選手。ドラゴンズというのもなにかの縁か▼二十四歳。強肩。打撃もいい。育成選手からはいあがって一軍登録となった経歴も応援したくなる。ある程度、日本語を話せるそうだが、ささやき戦術はまだ無理だろう。野球技術と言葉を磨いていただきたい▼伝説ではハリスは小学国語読本で日本語を覚えた。「サイタサイタ サクラガサイタ」。マルティネス選手の開花を待つ。


今日の筆洗

2020年07月19日 | Weblog


 東京に住む会社員が夏休みに地方の実家への帰省を計画していた。その旨を電話で伝えるとどうもお母さんの態度がおかしい。「帰って来てくれるのはうれしいんだけどね…」▼言いにくそうにこう続けたそうだ。「来るのなら、家族全員、検査で陰性を確かめてからというわけにはいかないかしら」▼新型コロナウイルスへの不安。近所の目も厳しい。万が一にもわが子の東京からの帰省をきっかけに地元で感染が拡大したら…。お母さんの胸の内がよく分かる▼東京での一日あたりの新規感染者数が急増している。四月以降の推移グラフを見れば、一度は下がったカーブが再び上昇。重症者が少ないのが救いだが、U字のグラフ曲線は不気味な怪物が口を広げているように見えてくる▼親でさえ「東京の人」を警戒したくなる状況である。政府の観光支援事業「Go To トラベル」から東京都発着の旅行や都民の旅行を除外せざるを得なかったのもやむを得ぬところか。この事業自体が時期尚早で、コロナの嵐の中では旅行へ行ってという政府の笛太鼓にも国民は気持ちよく踊れない▼観光業の悲鳴も聞こえる。経済と感染防止の両立の難しさは分かるが、まずは拡大傾向に歯止めをかけたい。怪物の口角を下げなければ旅情もなにもあるまい。あのお母さんが帰省の子どもを心からの笑顔で出迎えられる状況をつくりたい。


今日の筆洗

2020年07月18日 | Weblog
 四こま漫画『サザエさん』の昭和三十五年のある回に、将棋の加藤一二三さんの名前が、出てくる。「しょうぎの加藤八段をみろ!みんな若くてさかんにやっておる」。ちょっと頑固そうなおやじさんが覇気のない子どもに説教していた▼早熟にして、天才といわれた加藤さんは当時二十歳。初の名人戦に臨むころだ。若く、盛んなさまに国民的な関心と期待が集まっていたことを人気漫画への登場は物語っていよう。若い才能がこれからどんな物語をつくっていくのか、温かい視線が注がれていたに違いない▼六十年後のいま、当時以上の熱意でみることができる物語が目前で展開されているようだ。藤井聡太七段が史上最年少の十七歳十一カ月でついにタイトルを手にした▼加藤さんの記録を破る最年少のプロ入りやデビューからの連勝記録など、すでにたくさん驚かされてきた。十一年前の中日新聞の地方版に、愛知県瀬戸市の小学一年、六歳の聡太君が出ている。「羽生(善治)名人を超えたい」と夢を語っていた。地元では長く愛されている物語でもあろう▼一時の劣勢をはね返し、新棋聖となった。先日の王位戦の逆転勝利もそうだが、攻めの迫力に加えて逆境にも強い。死角がなくなっている▼どうやらまだ序章のようである。若く盛んな天才と同じ時代にいて、続きが楽しめる喜びを多くの人が感じたのではないか。

 


今日の筆洗

2020年07月17日 | Weblog

 <成功とは、倒れた回数より一度だけ多く立ち上がることなり>。評論家の中村保男さんがまとめた『ユーモア辞典』に教わった西洋の格言だ。スポーツの世界にもいま一度の栄光を求めて立ち上がる人がいる▼大相撲の元大関、照ノ富士関。何度、挫折を味わっただろう。五回ほど親方に「もう辞めさせてください」と伝えていたと、NHKの番組のインタビューに答えていた。両膝を何度も痛めたうえに、糖尿病や腎臓、肝臓の病気を患ってきたのだと告白している▼日曜日に始まる七月場所で、約二年半ぶりに幕内に帰ってくる。序二段にまで番付を下げてからの再入幕は史上初めてという。久しぶりに観客を受け入れて開催される場所は話題が豊富であるが、もう一度、幕内での輝きを求める人の再起に、時節がらもあって心が引かれる▼初優勝と大関昇進のころ、モンゴル出身の大型力士は強さと物おじしない言葉が、印象的であった。明日の横綱とも言われているが、地位も力も失った。プライドを捨てるつらさもあったようだ▼<人は幸運の時には偉大に見えるかもしれないが、真に向上するのは不運の時である>は、ドイツの詩人シラーの言葉という▼照ノ富士関は支えてくれた人たちへの感謝を胸に土俵に上がる。口調に謙虚さも漂う。「上位で暴れてみたい」。もう一度立ち上がった人のいまの願いであるそうだ。