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今日の筆洗

2017年04月22日 | Weblog

 これこそ、命名の妙というものだろう▼天王星の発見という偉業を成し遂げたウィリアム・ハーシェルは十八世紀末、土星の衛星を立て続けに見つけた。そのうちの一つを「エンケラドス」と名付けたのは、彼の息子ジョン・ハーシェルだ▼エンケラドスとは、ギリシャ神話の巨人。オリンポスの神はその怪力を封じるために、シチリア島の下敷きにしてしまった。だからこの巨人がのたうち回るたびに、島は揺れて、火山が噴火する。そんな大地を脈動させる力が、衛星エンケラドスにも働いているというのだ▼直径五百キロほどのこの衛星は、数十キロもの分厚い氷に覆われた星だ。しかし、その内部には、土星と引き合うことによる活発な地質活動があり、熱がある。氷の下には海があって、火山の島シチリアの間欠泉のように、水蒸気などが空高く噴き上げられてもいる(関根康人ほか『系外惑星の事典』)▼米航空宇宙局(NASA)がこの「宇宙の間欠泉」から出る物質を探査機カッシーニで採取し分析したところ、有機物などに加え、豊富な水素分子もあることが分かったという。海に熱に有機物に水素…エンケラドスは、生命を育む星かもしれぬのだ▼巨人エンケラドスと戦ったのは知性と学問の女神アテナだった。二十一世紀の知性は、衛星エンケラドスとどう格闘するか。ハーシェル父子に見せたい天文のドラマだ。



今日の筆洗

2017年04月21日 | Weblog

 小学校一年生の最初の算数の授業。先生は黒板にチョークで丸を書き、配った答案用紙に同じものを書いてごらん、と言った。皆すぐに答えを書いて、ハイ、ハイと手を挙げたが、一人だけ手を挙げない子がいた▼先生はその子のそばに行くと、感心してじっと見ていて、答案がようやく出来上がると皆に見せた。それは黒く塗りつぶされ、その中に白い丸が注意深く塗りのこされていた▼思想家・鶴見俊輔さんは著書『思い出袋』で、こういう教育、何が問題かを自分で考え、自分なりの答えを探す力、自問自答する力を養う学びが日本の教育制度では失われていると書いた▼そんな教育のありようを改めて考えさせられたのが、経済協力開発機構(OECD)が各国の十五歳に生活の満足度を尋ねた調査結果だ。日本の十五歳の満足度は四十七カ国・地域中、四十一位▼日本や台湾といった学力調査で好成績を残す東アジアで満足度が低く、中南米など学力調査ではふるわぬ国で満足度が高いというから、皮肉なものである▼日本では学力評価が低い生徒ほど満足度も低い傾向にあるという。それは、なぜか。誰かがつくった問題への○か×かを効率よく答えることばかりが評価され、子どもたちが学力という一つのものさしだけで自分に○×をつけるようになっているのではないか。そういう自問自答を誘う「四十一位」だ。


今日の筆洗

2017年04月20日 | Weblog

 衆院解散の時期と公定歩合に限ってはウソをついてもかまわぬとは、永田町の有名な言い伝えである▼ウソはなにも二つとは限るまいという声も聞こえてきそうだが、とりわけ衆院解散の時期については、これを理由にウソも許されることになってしまっている。野党に解散の時期を感づかれては時の利を失うという戦略上の判断だろう▼政権与党では後生大事にされる言い伝えだが、その由来となると、とんと分からぬ。吉田茂元首相説もあるそうだが、はっきりしない▼読み人知らずの言い伝えをウソの言い訳に使い続ける永田町も永田町だが、ひょっとして、この国から伝わったのか。そう考えたくなるほど、切れ味鋭い不意打ちである。英国のテリーザ・メイ首相が突然、総選挙の意向を表明。早期の下院解散を否定し続けてきた「氷の女王」の豹変(ひょうへん)である▼最大野党労働党の支持率の低さを見ての決断か。EU離脱に向け、総選挙で勝利し、基盤を固めようというのだろう。されど、再び、EU離脱の是非が問われる総選挙で勢いを失えば、大混乱が待っている。大ばくちでもある▼投票は六月の見通し。「JUNE(六月)が来ればMAY(五月)は終わり」。メイ首相の名前に引っかけたちょいとおつなシャレを英国メディアに見つけた。日本では六月を「風待ち月」ともいうが、世界注視の中、風はどっちに吹くか。


今日の筆洗

2017年04月19日 | Weblog

 エノケソ、土(ド)ノケン。「エノケン」の愛称で知られる昭和の喜劇王、榎本健一(一九〇四~七〇年)の「ニセモノ」たちの名である。戦後の一時期、本物の人気に便乗し、紛らわしい芸名で地方を回る一座が複数いたという▼三谷幸喜さんの最近の舞台、「エノケソ一代記」の主人公(市川猿之助)は本物のエノケンになることに取りつかれた芸人の一人。本物のエノケンの子どもが亡くなったと聞けば、悲嘆に暮れ、本物が病で右足を失ったと聞けば、自分も足を傷つけてしまう。その妻(吉田羊)のせりふが印象に残る。「あの人は本物のニセモノ」。ニセモノにも意地もあれば、夢もある▼同じニセモノでもこっちは腹立たしき偽物中の偽物である。神奈川芸術文化財団が保管していた棟方志功(むなかたしこう)の版画「神奈雅和(かながわ)の柵」がいつの間にやら、偽物にすり替わっていた。本物の方は盗まれた可能性が高い▼サスペンス映画なら、すり替わっていたのは精巧な贋作(がんさく)というのが通り相場だが、額を外せば、一目で分かるカラーコピーだったとは、騙(だま)された方もきまりが悪かろう▼しかも、県は偽物の判明から三年もその事実を伏せていたという。犯人はひょっとして、そのあたりの役人の習性を熟知していたのかもしれぬ▼エノケソにならって、カラーコピーの偽物を「神奈川の詐・苦」「神奈川の(失)策」とでも呼ぶか。笑えぬ。