映画『E.T.』の異星人は古い傘など物置にある何でもない道具を組み合わせて、仲間と交信する装置をこしらえた。村上春樹さんが、この装置づくりを言葉と創作の関係に重ね合わせている▼<優れた小説というのはきっとああいう風にしてできるんでしょうね>と『職業としての小説家』に書いている。日常的で平易な言葉も<そこにマジックがあれば…驚くばかりに洗練された装置>になると▼デンマークで、コロナ禍を乗り越えようという人々の思いが、「マジック」の役割を果たしたようだ。欧州メディアによると、ほとんど使われていなかったある言葉がコロナ流行下で広がって、力を発揮したという▼聞き取りに自信がない耳には「サムフンシン」と聞こえる。「社会」「心」の日常的な二語を組み合わせた言葉だそうだ。翻訳が難しいらしいが、「共同体の心」のような意味という。その「心」に基づいた「信じられないほどの善意」が医療支援や地域の助け合いなどの形になったそうだ。同国の「今年の言葉」の有力候補らしい▼日本の新語・流行語大賞は先日、候補が発表された。「アベノマスク」をはじめコロナ関連が多い。分かりやすくて人々の行動に大きな影響を与えた「3密」もある▼力を感じる言葉があった半面、北欧の国のように人の心を動かす装置のような言葉が、生まれてきてほしいとも思う。
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