TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「武樹と父親」5

2020年08月11日 | T.B.2017年
「爆発」
「させまくったなぁ」

砂漠の演習の帰り道。
とぼとぼ、と修練場の廊下を武樹達は歩く。

一人一発は自分で解除してみろ、という
指導の下。

解除=爆発。

「そりゃあ、あんなの
 無い方が安全だけれど」

正直身が震えた。
もし、知らぬ間に術を発動させてしまったら。

だから、と辰樹は言った。
慣れてはいけないが
恐怖で動けないのでは意味がない。

少なくとも動けるようにはなっておけ、と。

「俺達に、転送術なんて使えないしなあ」

哉樹が言う。

宗主の家系に伝わる東一族特有のもの。
その中でも使える者は限られていると言う
転移の術。

「宗主直系だったら、とか
 そう言うのじゃ無いみたいなんだよな」

例えば今日同行した陸院は使えない、らしい。

「あんまり大きな声で言うなよ」

先を歩いて居る陸院に聞こえたら
面倒くさそうな事になる気がする。

そうそう、と
武樹の心配なんて気にもせず、哉樹は話を続ける。

「前の世代には、一人
 使える人が居たみたいだけど」
「その人、ただの東一族なのか?」
「………いや、なんだっけな、か、なんとかいん」
「院が付くなら宗主系じゃないか」

「でも、こう、
 けっこう血筋は本家から離れていて
 あ~だめだ。名前思い出せない」

なんだったっけな、と
思い出せないもどかしさに
さらに哉樹はうなり出す。

放っておこう、と
興味を無くした武樹は
ふと、廊下の先に人影を見つける。

「……!!沙樹く!!」

言いかけて言葉が止まる。

廊下の先、沙樹は誰かと話している。

「あ」

そうだった、と哉樹は手を叩く。

「その人、医師様の弟だ」
「ばか、声が大きい」

うん、と沙樹ともう一人がこちらに顔を向ける。

「かっちゃん、むっくん」

どうしたの、と歩み寄る沙樹に
一緒に居た医師もこちらに歩いてくる。

「あ、げ、医師様」
「なんだ、俺の噂でもしていたのか」
「いや、あの」

哉樹は思い切って切り出す。

「医師様の兄弟で転送術が使える人が居たって」
「ああ、俺の弟だな」
「おおお」

そうなんだ、と沙樹も驚いて頷く。

「すごいね、俺達も見てみたいね転送術」

ねえ、むっくん、と
話しを振られるが、武樹は一歩後ずさる。

「………?」
「俺、用事あるから」

そう答えると武樹は
医師に手を合わせ、目上の人への礼をすると
ぱたぱたと廊下を走っていく。

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「辰樹と媛さん」18

2020年08月07日 | T.B.2020年


「ぶえっっっっくちゅっ!!」

「うっ、うるさっ!!」

「は、は、は」

「もう一発ですか、兄さん!?」

「は、はっ、…………」

「…………」
「…………」
「…………」
「…………」

「でないのかい!!」

 緊張の砂漠陣地で、声がでかいふたり。

「噂なのか何なのか」
「噂……」
「そして、いい天気だな!!」
「そこ!?」
「花が咲く時期になったばかりだというのに、何だか暑いな!」
「そう云うの、云わなくていいから……」

 辰樹の相方は息を吐く。

「早く進もうよ、兄さん」
「いや待て、そろそろ休憩だ」

 ふたりは、砂漠に坐り込む。

 携帯していた水と食糧を取り出す。

「はあ、暑いな」
 武樹(むつき)は呟く。
「早く帰って、浴場に行きたい」
「確かに」
 辰樹は頷く。
「お前の髪、いつもつるっつるだもんな!」
「なっ!! これは準備してある整髪剤の問題だ!」

 声がでかい。

 しばらく休んだあと、ふたりは歩き出す。

 武樹はあたりを見る。
 ただ、一面の砂漠。

「最近の砂の動きはどうかな?」
「え~、真面目な話?」
「……っ!!」

 何で、もう本当にこの人、
 わりかしいい立場にいるのに、こんな適当加減っっ!!
 もっと真面目で、武術が出来るやついるだろう
 大将っっ!!

 武樹は、きりっと辰樹を見る。

「いったい大将にどんな袖の下をっ!!」
「袖の下!!?」

 え~照れるなぁ、と云うけれど
 何も照れるところはない。

「昔組んでいた相方が、さ」

 辰樹が云う。

「結構、強いやつでさ」
「ふぅん、誰?」
「宗主様にでも勝てるんじゃないかってぐらい強くて」
「うん」
「そいつと特訓して強くなったからかなぁ」

 だから、こんなに適当でわいわいしていても、
 実力はある。
 仲間を思いやる気持ちもある。

 だから、辰樹は戦術師でも上の位置付けにいる。

「すごいな、大将……」

「おうとも!!」

「辰樹兄さん、哉樹と父親が逆なんじゃないかって思うわ……」
「えっ、何だ!! 従弟が何だ!?」
「こっちの話!!」

 それで

「最近の砂の動きはどうかな、兄さん!?」
「そうだな」

 辰樹は腕を組む。

「俺が思うに、近々大きな動きがあるとみた」
「えっ!? まじで!?」

 結構な大問題。

「大きな動きって、どんな!? どんな!?」

 武樹は目を見開く。

「戦術師が総動員するくらいか?」
「やべぇ!」
「そう。方向的にはこっち!」
「こっち!?」

 辰樹の指差す方向。

 砂漠

 ではなく、

 東一族の村。

「えぇええ、兄さん!」
「大将は信じたような信じてないような」
「信じないと思うよ!」
「でも、宗主様は無表情で肯定していたな」
「その場にいたの宗主様っ! そしてそれ肯定なの!?」
「信じていたな、宗主様は……(たぶん)」
「やだ、もう! 信じないで宗主様っ!」

 当たるか、辰樹の勘。





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「武樹と父親」4

2020年08月04日 | T.B.2017年

「今日は、砂漠に行くぞお前ら」

どーん、と元気な声が響く。

「本当の当番は夜の見張りなんだけどな。
 まあ、今日は訓練?下見?ってことで
 明るい時間だ」

今日は修練場での訓練ではない。
武樹を含め数人。
もうすぐ実戦に出始める者達が
ぞろぞろと年上の者に着いていく。

「今日の指導は俺と陸な!!」
「なんで!?」

うわぁああ、と陸こと陸院は声を上げる。

「なんで辰樹が陸って呼ぶわけ」
「照れるなよ。
 俺と陸の仲だろ」
「どういう仲!?」

「いや、未央子がお前の事そう呼んでるだろ。
 そうなれば、俺も親しみを込めてだな」

「込めるな!!
 だいたい、お前年下だろ。
 陸院様は無いにしろ、兄さんとかなあ」

「でもなあ、
 俺達の年代って人が少なくなって、うん、淋しいよな。
 明院様にはそんな距離感恐れ多い、だし。
 ここは、ひとつ」

「ねえ!!なんで!!
 明院には様なの!!?」

年上組の勢いに、
どうしていいのやら、な武樹達だが
いつもの事なのでそうっとしておく。

「相変わらずだな、辰樹兄さん」

「うーん」

親戚である哉樹は目をそらす。

「おっと、お前達。
 昼間と言っても油断するなよ」

す、と真面目な声になって振り返った辰樹に
武樹達は身を引き締める。

ほんの数歳違い。
たったそれだけ、でも
実戦に出て任務をこなしている。

その違いが辰樹から漂い知れる。

「昼間の砂漠は、めっちゃ熱いならな。
 水分は持ったか、塩分は大丈夫か!!」

確かに、とても大切なこと。

が、

「違うだろ、昼間の砂漠だって
 砂一族に気をつけろ、だろ。
 やだ、こいつと同じ組!!!」

ああ、もうと陸院が声を上げる。

「砂漠には、
 砂一族が設置している地点が点在している。
 誤って触れてしまえばどうなるか、は
 充分言い聞かせられていると思うが」

何より、と
言葉を続けながら、
陸院が自分を見た事に武樹は気がつく。

「やつらが狙っているのは、
 女子供。………攫われた者は悲惨だ」

「………」

「だから、僕らが食い止めないといけない。
 ここで、だ。
 絶対に東の地を踏ませるな」

「陸い………陸が
 まともなことを言っている」
「なんで言い直した。
 だいたい、お前が言わないから僕が説明をさあ!!」

こんなに騒いでいたら砂一族にばればれなのでは、と
一同は不安を覚えるが、
空気が緩んだ事に武樹は安堵のため息を付く。

陸院が自分を見たのは
気遣いなのか、無意識なのか、
それは分からない。

けれど、

この東一族で、
父親が分からないというのは
そういう事だ。

分かっているけれど
決して言えない子供。

でも。

「むつ兄」

哉樹の声に
武樹ははっと、顔を上げる。

「大丈夫?」
「………なにが?」
「ぼうっとしてた」
「そうかな」

なんでもない、と
首を振る。

「それじゃ、行こうぜ、
 辰樹兄さんが地点爆発させてくれるって」
「分かった」

そうか、と頷いたあと。

「爆発?」
「そう」
「させるの?」
「体験するが一番の身につくんだってさ」

「えぇえ」

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