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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「武樹と父親」4

2020年08月04日 | T.B.2017年

「今日は、砂漠に行くぞお前ら」

どーん、と元気な声が響く。

「本当の当番は夜の見張りなんだけどな。
 まあ、今日は訓練?下見?ってことで
 明るい時間だ」

今日は修練場での訓練ではない。
武樹を含め数人。
もうすぐ実戦に出始める者達が
ぞろぞろと年上の者に着いていく。

「今日の指導は俺と陸な!!」
「なんで!?」

うわぁああ、と陸こと陸院は声を上げる。

「なんで辰樹が陸って呼ぶわけ」
「照れるなよ。
 俺と陸の仲だろ」
「どういう仲!?」

「いや、未央子がお前の事そう呼んでるだろ。
 そうなれば、俺も親しみを込めてだな」

「込めるな!!
 だいたい、お前年下だろ。
 陸院様は無いにしろ、兄さんとかなあ」

「でもなあ、
 俺達の年代って人が少なくなって、うん、淋しいよな。
 明院様にはそんな距離感恐れ多い、だし。
 ここは、ひとつ」

「ねえ!!なんで!!
 明院には様なの!!?」

年上組の勢いに、
どうしていいのやら、な武樹達だが
いつもの事なのでそうっとしておく。

「相変わらずだな、辰樹兄さん」

「うーん」

親戚である哉樹は目をそらす。

「おっと、お前達。
 昼間と言っても油断するなよ」

す、と真面目な声になって振り返った辰樹に
武樹達は身を引き締める。

ほんの数歳違い。
たったそれだけ、でも
実戦に出て任務をこなしている。

その違いが辰樹から漂い知れる。

「昼間の砂漠は、めっちゃ熱いならな。
 水分は持ったか、塩分は大丈夫か!!」

確かに、とても大切なこと。

が、

「違うだろ、昼間の砂漠だって
 砂一族に気をつけろ、だろ。
 やだ、こいつと同じ組!!!」

ああ、もうと陸院が声を上げる。

「砂漠には、
 砂一族が設置している地点が点在している。
 誤って触れてしまえばどうなるか、は
 充分言い聞かせられていると思うが」

何より、と
言葉を続けながら、
陸院が自分を見た事に武樹は気がつく。

「やつらが狙っているのは、
 女子供。………攫われた者は悲惨だ」

「………」

「だから、僕らが食い止めないといけない。
 ここで、だ。
 絶対に東の地を踏ませるな」

「陸い………陸が
 まともなことを言っている」
「なんで言い直した。
 だいたい、お前が言わないから僕が説明をさあ!!」

こんなに騒いでいたら砂一族にばればれなのでは、と
一同は不安を覚えるが、
空気が緩んだ事に武樹は安堵のため息を付く。

陸院が自分を見たのは
気遣いなのか、無意識なのか、
それは分からない。

けれど、

この東一族で、
父親が分からないというのは
そういう事だ。

分かっているけれど
決して言えない子供。

でも。

「むつ兄」

哉樹の声に
武樹ははっと、顔を上げる。

「大丈夫?」
「………なにが?」
「ぼうっとしてた」
「そうかな」

なんでもない、と
首を振る。

「それじゃ、行こうぜ、
 辰樹兄さんが地点爆発させてくれるって」
「分かった」

そうか、と頷いたあと。

「爆発?」
「そう」
「させるの?」
「体験するが一番の身につくんだってさ」

「えぇえ」

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