TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と媛さん」19

2020年08月14日 | T.B.2020年



 東一族の村に戻り報告を済ませると、辰樹は武樹と分かれる。

 武樹は公衆浴場へ行くと云う。
 もちろん、辰樹も行こうかと思ったのだが

「未央子(みおこ)!」

「ええ、私です!」

 従妹の、未央子。
 辰樹の父親と未央子の母親が、兄妹なのである。

「お帰り!」
「おう、ただいま!」
「あなたねぇ、女子に余計なことを教えるんじゃないわよ!」
「おぉお、突然何だ!?」
「汚れた手を服で拭くとかっ!」
「なるほど!」

 辰樹は手を叩く。

「それ、亜香子(あかこ)にも云われたぞ!」

 媛さんの従姉である。

「最悪!」
「いや、俺は過酷な状況でも生き残れる術をだな!」
「それは、教えんでもいいっ!」

 あはは~、と走る辰樹を
 本気の怒りで追いかける未央子。

 あらあら
 相変わらず元気ねぇ、

 と、東一族に微笑ましく見守られながら。

「ちょっと、辰樹っ!」
「あはは! 未央子、こっちこっち!」

 とは云え、辰樹は戦術師。
 腕も体力も、並外れている。
 普通に走って、未央子が追いつくわけがない。

「辰、樹っ……!」
「ゆっくり走るか、未央子!」
「ちょっ、どこに行くのよ!」
「こっちだよ」

 やがて、人通りがなくなり

 村はずれへ。

「はぁはぁ……、もう無理」

 未央子は顔を上げる。

「ここに……何があるのよ……」
「今日、花を持って行くって云っていただろ?」

 息も切れ切れに、未央子はあたりを見る。

 一族の、墓地。

「小夜子の花なら、もう行ってきたよ」
「うんうん」

 辰樹は云う。

「ここに、その子の墓があるんだよ」
「えっ?」

 その言葉に、未央子は辰樹を見る。
 戸惑いの表情。

「……墓はないわ」

 未央子は云う。

「探したもの!」

 友人が亡くなり、
 一族でいろんなことがあり

 それが落ち着いてから。

 何度も墓場に来ては、友人の墓を探した。

 友人を埋めたのは、自身の父親。

 でも、

 その場所は教えてくれない。
 誰かとの約束だから、と、云って。

 友人の墓は、見つかることはなかった。

「だから、私はあの場所へ行ってきたのよ」

 友人が亡くなったとされる場所へ。

「嘘付かないでよっ」
「未央子!」

 辰樹は手を招く。

 墓場の奥へと進む。

 日は傾いている。
 あたりは薄暗い。

「辰樹ったら!」

 辰樹は振り返らず、進む。

 墓石が並ぶ場所、を抜け、その先へ。

「ねえ、ちょっと!」
「ここだ!」

 辰樹は、足下を示す。
 その下に転がる石を見せる。

「何?」
「その子のお墓」
「え?」
「だから、お墓だよ」
「……これ、が?」

 墓石ではない、ただの石。

「……お墓?」
「見てみなって」

 未央子は、おそるおそる、その石を見る。

 そして

 目を見開く。

 石に刻まれているのは

(小夜子 2003―2017)

 の、文字。

「嘘……」
「嘘じゃないって」

「小夜、子……?」

「間に合ったな」

 辰樹は、未央子を見て笑う。

「何、……笑ってんのよ」
「だって、見送りなら楽しい方がいいだろ?」

 その魂が、また空へと還る日。





NEXT

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする