TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「武樹と父親」6

2020年08月18日 | T.B.2017年
「もう食べられない」
「暫くは、とうもろこしはいいかな」
「かっちゃん、
 そればっかり食べてたからね」

夕暮れ時のほんの少し薄暗い時間。
おなかを膨らませて
武樹達は帰路を歩く。

「なんというか」

武樹は沙樹をみる。

「沙樹くんも、
 こういう行事出るんだ」

もちろん、と沙樹は頷く。

「去年は羽子の面倒見る人が居なかったから、
 欠席だったけど、
 俺、結構こういうの好きだよ」

こういう。

「納涼川遊び?」

「いや、もっと、こう」

東一族の若者達が川辺に集い
水辺で遊んだり、
野菜を焼いて食べたり、
飲める者は酒を飲んだりする。

いつの間にか毎年、
暑い時期になると行われる催し。

「世界に無い概念を
 あるもので説明するって難しいな」
「だよなあ」
「何を言ってるんだ、俺達は?」

今日は羽子は居ない。

元々、門番や砂漠の見張りを終えた後に
息抜きをしよう、と集ったのが始まりなので
男ばかりの集まりとなっている。

「青年部?」
「この話はもう止めよう」

「おおい」

と、後ろから
大きな袋を下げて辰樹が走ってくる。

「待て待てお前達。
 持ち帰りの品を忘れるな」

大きな袋をそれぞれに渡される。

「今日の、余った野菜だ。
 家で食べてね!!」

ちょっと準備し過ぎた模様。

「と、沙樹はこれも」

ほら、と酒を手渡す。

「飲んでなかったから、
 家飲み用な」

おお、と武樹は少し驚く。
そうか、沙樹ももう十四。
東一族では酒の飲める………。

「いや、飲めないから!!
 2年早い!!!」

お酒は十六になってから(東一族基準)

「冗談だって。
 これも余ったから、親父さんに」
「そうそう、
 俺達まだ飲まないよ~」

武樹と哉樹は顔を見合わせる。

そう言えば同い年の辰樹と沙樹。
二人のやりとりを見たのは初めてかもしれない。
いつも見せる顔とは少し違う雰囲気に
少し意外な面を見てしまう。

あと、どこまで冗談でどこまで本気なのか。

「飲んだから面倒くさそうだよな、こいつ。
 性格もあれだしな」
「辰樹、ちょっと後から話があるよ」
「こういう所だぞ」

少し賑やかだけれど、
先ほどまでの大人数の集いの
余韻に浸りながら、

なんだか、まったり、武樹達は帰り道を進、

「ひゅん!!」

「え?」
「何今の声?」
「………哉樹?」

一番前を歩いていた哉樹が
最後尾に回り込む。

「どうしたあ、哉樹」
「なんか、ほら、
 ………前から誰か、来てない?」
「前?」
「うーん?」

武樹他、皆が目を細めて先を見る。

「確かに誰か来てる、かな?」
「俺よく見えないや。
 かっちゃん、目がいいね」
「誰だろ、おーい、ふがふがっつ」

手を振って声をかけようとした辰樹の口を
哉樹が塞ぐ。

「辰樹兄さん、なにしてんだよ」
「何しては、お前だろ」

だって、と、
若干青い顔をしながら哉樹が言う。

「お、おかしくない。
 灯りも持たずに、こんな時間に、
 この先、村の外れ、だろ」
「いや、でも
 家が無い訳じゃないし」
「こんな時間って、別に夜でも無いんだから、
 ―――まさかお前、お化けか何かだと」

「止めろ!!
 そう言う話をしていると
 やつらは寄ってくるんだよ!!」

「ええぇ、マジだよこいつ」
「将来、夜の砂漠当番大丈夫かな」
「落ち着けよ哉樹。
 本当に怖いのは生きてる人間」
「辰樹兄さん、
 それは真理だけど」

「あああああ、ききき来たぁああああ」

「ねえ」

「きっやああああああああああ!!」

「絵に描いたような
 絹を切り裂くような声」
「嘘だろ、哉樹」

「………え、なに。
 どうしたの?」

軽く意識が飛んでいる哉樹を抱えつつ、
武樹達は声の方を見る。

この距離だと、
薄暗くても顔がよくわかる。

「「「………」」」

なんと説明して良いのやら、と
悩んだ挙げ句
沙樹が少し困り顔で答える。

「やあ未央子、こんばんは。
 この事はうん。忘れてやってくれないかな。
 ―――哉樹の名誉のためにも」


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