TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「武樹と父親」1

2020年07月14日 | T.B.2017年
「………」

ふいに、外からの光で目が覚める。
起き上がると日が昇っている。

「………まじか」

武樹(むつき)は寝床から這い出す。

今日は座学や体術の訓練がある訳じゃ無い。
何も無い1日、だ。

だからこそ、
こんな時間に目が覚めたのが惜しい。

「母さん起こしてよ」

もう仕事に出ている母に
聞こえる訳でも無く、
ひとり、ぐだぐだと愚痴る。

朝食を平らげ
洗面所で顔を洗い、
布を探し手を伸ばす。

ふと、鏡が目に入る。

母親が身支度を整える為に
置いている物。

生意気そうな釣り目と
口元ホクロがある
不機嫌そうな顔が映る。

見慣れた自分の顔。

「ふん」

鏡を伏せて、
武樹は自分の部屋に戻る。

寝間着から普段着に着替え
今日はどうしよう、と
しばらく考える。

「沙樹(さき)くんは
 ………今日は居ないって言ってたな」

いつも遊んでいるお隣さんは不在。

かと言って、
家でじっとしている性分でも無いので
あてもなく家を出る。

途中で拾った
いい感じの木の棒を引きずりながら
沢を歩く。

「武樹!!」

よお!!と
やたら大きな声が振ってくる。

「………うげぇ」

「なんだ、
 こんな所で奇遇だな」

「哉樹(かき)」

現れた少年に
あのさぁ、と武樹は身を引く。

「一応俺が年上なんだからさ
 ちゃんと兄さんって呼べよな」

この村では
血か繋がっている、居ないにかかわらず
年上の者は「兄」「姉」と呼ぶ。

哉樹とは一歳し変わらないけれど。

「じゃあさ、むつ兄!!
 今暇!?手合わせしようぜ」

上の道を歩いていた哉樹は
ずさささ、と道無き道を滑り降りてくる。

横に並ぶと目線が同じ。
背丈があまり変わらない。

一つ歳が違うのに。

「俺と、並ぶな!!」

自分の背が低いんじゃない、
哉樹が高いだけだ。
それに成長期だし
自分の方がもっとこれからぐんぐん伸びるし。

武樹は自分に言い聞かせる。

「だいたい、こんな河原で手合わせとか嫌だよ。
 絶対汚れるじゃんか」
「実戦じゃそんな事言ってられないぞ」
「実戦じゃないだろ、今」

「ええええ、やろうよ」

「嫌だよ。
 他に探せよ」

だってさ、と哉樹は口をとがらせる。

「俺に敵う奴
 そうそう居ないじゃん」

なあ、そうだろ、と
少し斜に構えて武樹を見る。

うわ。

カチンと来た武樹は
スタスタと歩き出す。

「げ!!
 むつ兄怒った!?」
「マジで、むかつく、お前!!」
「悪かったって」

「修練場」

武樹は吐き捨てるように言う。

「そこなら泥で汚れないからいいよ。
 覚悟しろ相手してやる」
「お!!」

やった、と哉樹は武樹の後を追う。

「分かってるじゃんむつ兄」
「まあ、俺は汚れないけどな」

だって。

「投げ飛ばされるの、お前の方だし」
「それはどうかな~」
「言ってられるのも今のうちだぜ!!」

うおおお、と
武樹は早歩きで、
その横をスキップで哉樹は駆けていく。

「あ、哉樹だ」

修練場を通りかかった者が
中を覗き込む。

「相変わらず大雑把な戦い方」

父親に似たんだろうな、と
その様子を伺う。

「なのに様になってるのなんでだろうな」

あの血筋怖いな、と
哉樹の父親の幼い頃を知る彼は冗談を言う。
共に居たもう一人も面白そうに
手合わせを眺める。

「だけど、結構押されているな。
 五分五分か、相手は」

ああ、と武樹の顔を確認し
やや顔をしかめる。

「武樹か」
「あいつも………父親似、か?」
「うわさ、だろう」
「噂、だが」

と、次の瞬間
哉樹が投げ飛ばされる。

「どうだ」

「あー、もう少しだったのに。
 今ので三勝三敗だな。
 よし、あと一回してきちんと勝敗を決めよう」
「もういいよ。俺疲れた」
「頼むよ。
 俺と互角に戦えるのむつ兄だけだし」
「辰樹兄さんとか居るだろ、
 ………もう、俺の負けでいいし、疲れたし」

休憩休憩、と歩いてく武樹に、
もう一回、と哉樹が着いていく。

「どちらにしろ、
 腕のある者が揃っていてなによりだ」
「ああ」

そうやって去っていく大人の足音を聞きながら
武樹は一人ため息を付く。

「………」


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「東一族と巧」7

2020年07月10日 | T.B.2000年

 旧ぼけた樹。

 その横に一軒家。

 彼の息は白い。

 薪を背負い、片腕で作物を持ち、家へと戻ってくる。
 荷物が多く、上手く歩けない。

 と、

 彼は外に彼女が出ているのに気付く。

 白い雪景色の中

 東一族の黒髪。

「おい! 何をしている!」

 思わず巧は叫ぶ。

 荷物を投げ棄て、近付く。
 大雪の中、外に出る意味が判らない。

 彼女が振り返る。
 その腕には、薪を抱えている。

 部屋の薪を補充しようとしたのだろう。

「何している!」

 彼は、薪を奪い取る。

「中の薪が少ないから、薪を、」
「外で勝手なことをするな!」

 そう云って、扉を見る。
 乾かした薪が濡れる前に、中に入れなければならない。
 片腕は、薪で塞がっている。
 彼女は慌てて、扉を開ける。

「中にいろよ」
「でも、」

 こんな寒い中、何を云っている。

 彼は悟の言葉を思い出す。

「誰かに見られたら、面倒くさいと云っているだろう」
「……ええ」

 彼は暖炉の近くに薪を置く。
 暖炉の火は、小さくなっている。
 少し、薪をくべる。

「荷物は?」

 彼女が云う。
 先ほど彼が、雪の中に投げ棄てた荷物。

「取ってくる」
「手伝うわ」
「いいって」
「ふたりで運べば早い」
「いいって」

 家の周りさえ、雪かきはされていない。
 道はない。
 危険だ。

 彼は再度、外へと出る。
 変わらず、雪が降っている。

 彼は息を吐き、雪の上に散らばる荷物を取りに向かう。

 戻ってきて、作物は机の上に置く。
 濡れた薪も運んでくる。

 彼女は、彼が持ってきた作物を見る。

「何でもいいの?」

 彼女が云う。

 野菜しかない、と、思ったのだろう。

「肉料理も出来る、けど……」
「…………?」

 彼は目を細め、彼女を見る。

 悪気はないと、判っている。
 けれども、その言葉が、彼に突き刺さる。

「うちに、肉が回ってくると?」
「あ、いえ」

 彼女は首を振る。

 彼は、自身の腕を見る。
 ない腕、を。

 狩りで得た肉は、村人に分けられる。
 獲た者の取り分はもちろん多くなるが。
 狩りに出ない者にも、肉は回ってくる。

 が

 それをよく思わない者もいる。
 ましてやこの時期。

 彼は、ない腕の、付け根に触れる。

 東一族は肉を食べないと、誰かが云っていたじゃないか。

「西に来て、肉の味でも覚えたのか」
「そう云うわけじゃ……」
「頭を下げて、肉をもらってこいと?」
「違うの。……ごめんなさい」

 彼は息を吐き、濡れた薪を持つ。
 先ほどのものとは別に、暖炉のそばに立てかける。
 乾かす。

 彼女は、作物を持って、料理をはじめる。

 彼は、外に出る。

 そして

 そこから、置小屋を見る。
 ほんの少しの距離。
 けれども、雪かきはされていない。

 今まで、自分しか使っていないから。

「……仕方ない」

 彼は片腕で道具を取る。

 雪かきをはじめる。






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未央子と陸院

2020年07月07日 | イラスト



夕暮れ時、
東一族の村へ戻る馬車の中。
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「東一族と巧」6

2020年07月03日 | T.B.2000年

 雪が降っている。

 が、まだ少ない方だ。

 今のうちに畑を見ておこうと、彼は準備をする。

 暖炉に火を起こす。
 部屋が暖まる。
 彼は暖炉の横を見る。
 薪はない。

 外の置小屋にもう少しあるはずだが、
 今後を思うと、薪も集めておかなければならない。

 彼女はまだ動き出さない。

 早い時間。
 人目に付かないうちに外でやることを覚えた、自分の時間。

 彼は家を出る。
 畑に向かう。
 積もった雪が、いつもより厚い。
 なかなか、前へと進めない。

 息を切らして、彼は畑を眺める。

 もちろん、雪一色。
 先ほどより、あたりは明るくなっている。

 判りやすい場所に荷物を置き、彼は、道具だけを持つ。

 雪をかく。
 彼は首を傾げる。
 何も出てこない。
 ここは、もう、掘り上げた場所だっただろうか。

 彼は場所を変え、作物を探す。
 雪をかく。

 少し、多めに作物を持ち帰ろう。
 雪をかき、土を掘り、作物を取り出す。
 まだ、畑には十分に作物がある。
 雪が溶け暖かくなるまで、食糧は保つ。

 と、

 何かがこちらを見ている。

 巧は顔を上げる。

 静かな場所。
 ほんの少し、降っている雪。

 その中に、

 獲物。

 一羽の兎

 餌を求め、さまよっているのだろうか。

 無意識に、彼は手に持つ道具を、握り直す。

 目が合っている。
 もちろん、彼のことは気付いている。

 少しの距離。
 彼は、一歩踏み出す。

 獲物は、動かない。

 また、一歩。

 一歩。

 瞬間

 獲物は向きを変える。

「…………っ!?」

 彼は走り出そうとする。

 が

 走り去る獲物。

 追いつくわけがない。

 狩りの飛び道具も、ない。
 あったところで、扱うことは出来ない。

 すぐに、獲物の姿は見えなくなる。

「…………」

 その方向を、彼は見る。
 また、現れるわけでもないのに。

 彼は息を吐く。

 畑に戻る。
 作物をまとめ、道具を持つ。

 空を見る。
 先ほどより、雪の量が多くなっている。

 けれども、まだ、薪を集めなければならない。

 彼は歩き出す。




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