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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と媛さん」16

2020年07月24日 | T.B.2020年
「花?」
「ああ、これ?」

 その彼女は微笑む。

「きれいでしょ?」
「うん」

 媛さんは云う。

「花を持って、ひとりで何するの?」
「これは、友人の花」
「友人?」

 媛さんは云う。

「ひょっとして、……供える花?」
「そう」

 彼女は坐り込む。

「もうすぐ三年だなぁ」

 云う。

「友人が亡くなってね」
「…………」
「このあたりで」
「……ここで?」
「ええ」

 あれ?

 ここは、父親が誰かを偲び、形代を燃やした場所。

「どうかした?」

 ひょっとしたら、この人は知っている?
 ここで、何があったのかを。
 父親が、何を云おうとしたのかを。

「ここで、何があったの?」

「え?」

「この前、父様がここで形代を燃やしていたの」

「形代を?」

 形代。

 願いをのせたり
 誰かの無事を祈ったり

 そして

 亡くなった者を偲んだり。

「そう、形代を……」

 彼女は、媛さんを見る。

「私は友人の最期には会えなかったのだけど、……」

 彼女は呟く。

「ここで亡くなったんだと思う」
「思う?」
「はっきりとは判らないの」
「判らない?」
「最期には会えなかったから」

「何があったの?」
「…………」
「何が、」

「砂一族に殺されたの」

「砂、一族?」

「そう」

 彼女は云う。

「友人は、目に病があって、見ると云うことが出来なくて」

 砂一族に利用されたのだと。
 宗主の屋敷で働いていることも知られていた。
 毒だと知らずに、砂一族に渡されたそれを、宗主の元へ運ぼうとした。

 何も知らない宗主が、それを口にすれば、……。

「一時は諜報員だと云われ、それで一族の者に殺されたのだと思ったけれど」

 後の調べで、

 もちろん、その友人が死んだ後で

 友人は無実とされた。

 宗主の口添えだった。

「ああ、これで、友人に花を供えることが出来ると思ったんだけど」

 親のいなかった友人の墓は、どこにあるのか判らない。

「誰かが埋めたんじゃないの?」
「私の父親がね」
「父親?」
「私の父親は医師なの」
「医師様?」
「そう」
「なら、訊いたらいいじゃない」

 彼女は空を見る。

「どこに埋めたのか教えてくれないのよ」

「…………」

「誰かとの約束なんだって」





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