日が昇り出すころ。
東一族の村。
一族唯一の病院。
「おい」
「何だよー」
呼ばれて、戒院(かいいん)は眠そうな声を返す。
「熱でも出たか?」
「違う」
「なら、もうすぐ務めが明けるからそれからにしてくれよ」
云いながら、戒院は、部屋へと向く。
「務めだ」
「だから、今、夜通し務め中なんだって」
「外に、だよ」
「…………」
「外に」
「……ん?」
「外に行け」
「外に!?」
今から!? と、戒院の頭がさえる。
もう一度、顔を出す。
病院の入り口に、大樹(だいき)が立っている。
「何? どう云うこと!?」
「務めに失敗した」
「務め?」
「砂漠だ」
大樹は持っている杖を鳴らす。
彼は占術師。
まだ若いながらも、その力で、外での務めを見守っている。
対して、戒院は医術師。
見習いとは云え、多くを学び終わっている。
「砂漠でって、砂一族かよ」
「内容までは判らん」
大樹が云う。
「でも失敗したようだ」
占術で、すべての情報が入るわけではない。
何か、そう云うものを感じ取る、と云う。
「砂一族だったら、行きたくな、」
「戒院」
「……誰だよ、その務め」
「佳院だ」
「いや、佳院なら大丈夫だろうが!」
「戒院!」
「……はい」
戒院は、渋々云う。
「大医師(おおせんせい)に云ってくる……」
「俺が伝えておくから」
その目は急げと云っている。
戒院は息を吐く。
「明けの、転送術か……」
「急げ」
「判ったって!」
「戦術師を連れて行くか?」
「いや、本当に、ふたり飛ばすとか無理です」
「大丈夫か?」
「俺ひとりで行ってくるよ」
戒院は必要な道具を持つ。
足下を見る。
「ところで相手は?」
「裏一族だろう」
「裏?」
「ほら」
大樹は、飾りを取り出す。
ここ最近、北の商人が、東の女性に配っていると云う、飾り。
「北の商人?」
「おそらく裏一族と云うことだ」
大樹が云う。
「これと同じ痕跡」
「ふーん」
「つまり、これを配っていた者」
「が、砂漠に、ねぇ」
戒院は首を傾げる。
その足下が光る。
瞬間。
その姿が消える。
東一族式転送紋章術。
砂漠へ
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