TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「稔と十和子」7

2018年08月07日 | T.B.2003年

食事を終え、
稔は席を立つ。

「寝直すのか?」
「いや、出かけてくる」

仕事疲れが溜まっては居るが、
食事をすませたら目が冴えてしまった。

寝とけば良いのにと、弟の透が言うが
休みの日を寝てばかりというのも
勿体ない気もする。

「最近は買い物にも行ってなかったからな」
「なるほど、仕事を忘れて
 買い物で気分転換、か」
「………そんな、俺は女子か」

弟をいなしながら
軽く身支度を整え、家を出る。

「あら先生、
 今日は非番なの?」

外を出歩いていると
村人に声をかけられる。

「そうですよ。
 最近はどうですか?」

たわいもない会話。
ごく普通の世間話。

それが、稔にとって大事な事。

高子が居る時は
往診で村を出歩くのが
稔の主な仕事だった。
近頃は病院に籠もりっきり。

それでは
得られる情報が少ない。

「仕事を忘れて、ね」

村長は今の状況では
それもやむを得ないと言ってくれているのに
自ら仕事を増やしているのは分かっている。

「………」

今日は寝て過ごそうと思っていたのに
目が冴えたのは、
夢を見たからだろうか。

十数年前狩りで死んだ
父親の夢だった。

突然の事。

狩りではそういうこともあると
分かっては居たのに、
自分の家族がとは、想像すらしていなかった。

残された、母親と、その時はまだ幼かった弟。

自分が支えなくてはと思った。

「………ふぅ」

無意識にため息が漏れる。

「あ」

声が聞こえて顔を上げる。

いけない、気が抜けていた、
表情を作り直してそちらを見ると
十和子がそこにいる。

「………こんにちは」

色々と見抜かれている気がして
何となく苦手な彼女。
笑顔を見せたつもりだが、
ぺこりと頭を下げると
慌てて立ち去っていく。

「あれ?」

病院で会うときはもっと
ぐいぐい来ていなかったか?

それが、急にあんな態度をされると
なんとなく、腑に落ちない。

「ちょっと、待って!!」

稔は十和子を追いかける。


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