村はずれの建物。
そこから出てきた医師は、目の前に立つ者を見る。
彼は、そこで、医師を待っていたかのように。
「こんなところで、……どうした?」
医師の甥が、そこにいる。
「それ、名札?」
彼は、医師が持つ木の札を指差す。
「そうだ」
「どうするんだ、それ?」
「宗主様に持って行く」
「外したのか?」
歩き出そうとした医師に、彼は問う。
「天樹(あまき)の名札を外したのか」
医師は彼を見る。
「それを知ってどうする」
「その名札を見せてくれ」
医師は首を振る。
云う。
「あの建物に納められている名札は、東一族の者だ」
「知ってる」
「正確には、〈東一族〉に属する者」
「…………?」
「亡くなった者だけではなく、離族した者も外すことになる」
「…………」
「名札を外すことは、宗主様の指示だ」
彼は、目を細める。
医師が持つ名札を見る。
誰の名まえが書かれているのか、彼には見えない。
「天樹は死んだわけじゃない」
「それはどうかな」
「行方が判らないだけだ」
「それを、宗主様は離族と判断された」
「状況からして、離族じゃないだろ」
「判っている」
「おかしいよ……」
彼はうなだれる。
「天樹の名札は外されたのか……」
「…………」
「なぜ、宗主様は、……天樹を、」
「その、お前が云う天樹という子は」
医師は、彼を見る。
「東一族一の力を持っていたと思う」
彼は顔を上げる。
「医師様もそう思うか!」
彼が云う。
「そう! 天樹は、東一族への貢献が高いはずだ!」
彼は思い出す。
これまで、天樹がしてきたこと、を。
医師は頷く。
「つまり……、お前も判るだろう?」
「え?」
「力を持つ者が消えることは、」
「…………」
「東一族自体に脅威になると云うことを」
「何?」
彼の顔が曇る。
「天樹が、脅威?」
医師は再度頷く。
「そんなわけないだろう!」
彼は声を上げる。
「天樹は怪我をした状態でいなくなったんだぞ!」
「そうだな」
「なのに、」
「まあ、聞け」
医師は手を広げてみせる。
「宗主様は見棄てたわけじゃないと、云うことだ」
「…………?」
「何かしら手を打つ」
「それは、」
「どう云う形であれ、天樹を探し出すはず」
「天樹を……」
「そう」
「探して、くれる」
医師は、彼の肩に手を置く。
「見つかるのは、そんなに先ではないと思うんだが」
医師は彼を見る。
「だよな!」
彼の顔に笑顔が戻る。
それを見て、医師は息を吐く。
「あまり暗い顔をするな」
「おう!」
「その前に」
「何の前?」
「お前、近々、頼みごとをされると思うぞ」
「頼みごと? 誰に?」
「宗主様に」
「えっ、宗主様に!」
彼は慌てる。
「俺、何かした!?」
「いや、だから、頼みごと」
「ちょっ、補佐に聞いてみよう!!」
「おいおい、辰樹(たつき)!」
医師が云う前に、彼は走り出す。
「あいつ、早いな……」
後ろ姿を見送って、医師も歩き出す。
宗主の屋敷へと向かって。
2017年 東一族の村にて