TOBA-BLOG 別館

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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「医師と名札」

2017年02月24日 | T.B.2017年

 村はずれの建物。

 そこから出てきた医師は、目の前に立つ者を見る。
 彼は、そこで、医師を待っていたかのように。

「こんなところで、……どうした?」

 医師の甥が、そこにいる。

「それ、名札?」

 彼は、医師が持つ木の札を指差す。

「そうだ」
「どうするんだ、それ?」
「宗主様に持って行く」
「外したのか?」

 歩き出そうとした医師に、彼は問う。

「天樹(あまき)の名札を外したのか」

 医師は彼を見る。

「それを知ってどうする」
「その名札を見せてくれ」

 医師は首を振る。

 云う。

「あの建物に納められている名札は、東一族の者だ」
「知ってる」
「正確には、〈東一族〉に属する者」
「…………?」
「亡くなった者だけではなく、離族した者も外すことになる」

「…………」

「名札を外すことは、宗主様の指示だ」

 彼は、目を細める。
 医師が持つ名札を見る。

 誰の名まえが書かれているのか、彼には見えない。

「天樹は死んだわけじゃない」
「それはどうかな」
「行方が判らないだけだ」
「それを、宗主様は離族と判断された」
「状況からして、離族じゃないだろ」
「判っている」

「おかしいよ……」

 彼はうなだれる。

「天樹の名札は外されたのか……」
「…………」
「なぜ、宗主様は、……天樹を、」

「その、お前が云う天樹という子は」

 医師は、彼を見る。

「東一族一の力を持っていたと思う」

 彼は顔を上げる。

「医師様もそう思うか!」
 彼が云う。
「そう! 天樹は、東一族への貢献が高いはずだ!」

 彼は思い出す。
 これまで、天樹がしてきたこと、を。

 医師は頷く。

「つまり……、お前も判るだろう?」
「え?」
「力を持つ者が消えることは、」
「…………」
「東一族自体に脅威になると云うことを」

「何?」

 彼の顔が曇る。

「天樹が、脅威?」

 医師は再度頷く。

「そんなわけないだろう!」

 彼は声を上げる。

「天樹は怪我をした状態でいなくなったんだぞ!」
「そうだな」
「なのに、」
「まあ、聞け」

 医師は手を広げてみせる。

「宗主様は見棄てたわけじゃないと、云うことだ」
「…………?」
「何かしら手を打つ」
「それは、」
「どう云う形であれ、天樹を探し出すはず」
「天樹を……」
「そう」
「探して、くれる」

 医師は、彼の肩に手を置く。

「見つかるのは、そんなに先ではないと思うんだが」

 医師は彼を見る。

「だよな!」

 彼の顔に笑顔が戻る。

 それを見て、医師は息を吐く。

「あまり暗い顔をするな」
「おう!」

「その前に」

「何の前?」

「お前、近々、頼みごとをされると思うぞ」
「頼みごと? 誰に?」
「宗主様に」

「えっ、宗主様に!」

 彼は慌てる。

「俺、何かした!?」

「いや、だから、頼みごと」

「ちょっ、補佐に聞いてみよう!!」

「おいおい、辰樹(たつき)!」

 医師が云う前に、彼は走り出す。

「あいつ、早いな……」

 後ろ姿を見送って、医師も歩き出す。
 宗主の屋敷へと向かって。





2017年 東一族の村にて
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