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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「辰樹と天樹」30

2017年02月17日 | T.B.2017年

 辰樹は走る。
 水辺へ。

 走りながら、宗主の先ほどの言葉を思い出す。

 何しろ、秘密が多い天樹だった。
 倒れているにしても、誰にでも頼めるわけではないのかもしれない。

 だから、

 宗主は、わざわざ自分に云いに来たのだ。

 先ほどの場所にたどり着く。

 水辺に延びる血の痕。
 その痕を追う。

 誰もいない。

「天樹」

 辰樹は声を出す。

「天樹、いるのか!」

 辰樹の声だけが響く。
 静かな水辺。

 辰樹は、水辺のぬかるむ土を踏む。

 何かが、水辺へと入った痕跡がある。
 大きさからして、……人?

「……いやいや」

 しばらく辰樹は水辺を見て回る。

 けれども、

 何の気配もない。

 辰樹は息を吐く。
 村へと、戻る。

 宗主のいる屋敷へと行く。

 そこで、補佐に会う。

「どうした辰樹?」
「宗主様に面会を」
「ああ、宗主様なら」

 補佐は、後ろを見る。
 そこに、宗主がいる。

「あの、」

 辰樹は云う。

「天樹は、……いませんでした」
「いない?」

 辰樹は頷く。

 補佐が云う。

「なぜだ? いなくなったのか」
「判らない。とにかく、いなかったんだ」
「……そうか」

 補佐は、宗主を見る。

 と、
 宗主は補佐に向けて手を上げる。
 補佐が何か云おうとするのを、止める。

「宗主様、」
「…………」
「まだ、探してみます」

 宗主が云う。

「これ以上の捜索は不要だ」
「え?」
「無駄なことをするな」
「でも、」
「以後、天樹と云う人物は東にはいない」
「……宗主様」

 辰樹は云う。

「天樹を見棄てる、の、ですか」

 辰樹は宗主を見る。

「宗主様!」
「辰樹!」

 補佐が、辰樹を制止する。

 宗主は辰樹に背を向け、歩き出す。
 補佐も、それに続く。

 辰樹はそれ以上、何も云えない。

 そこに、ひとり取り残される。


 辰樹は、空を見上げる。


 青空。


 そして、

 木の上に白い花。

 いつだったか、天樹と一緒に登った、木だ。
 そう、辰樹は思う。

 けれども、天樹はいない。

 辰樹はひとり、歩き出す。





2017年 東一族の、ある少年の話
コメント
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