TOBA-BLOG 別館

TOBA作品のための別館
オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「山一族と海一族」23

2017年02月10日 | T.B.1998年

「私が生け贄じゃないって……?」

 カオリはアキラを見る。

「兄様、それはどう云う」
「マユリが、生け贄に選ばれた」

 カオリは目を見開く。

「マユリ、が?」

 アキラは頷く。

「なぜ……」
「生け贄、と云う存在が必要だからだ」
「そんな……」

 カオリは震える。

「私はいったい、どうすれば……」
「カオリ」
「マユリは、私のせいで、」

「カオリ」

 アキラは、カオリを制止する。

「よく聞け」
「……兄様」
「生け贄は、今後必要なくなる」

「…………?」

 カオリは訳が判らないと、顔を上げる。

「それは、どう云う……」
「生け贄の存在自体が無意味だからだ」
「でも、」
「今回の災いは、命を犠牲にして収まることじゃない」

「なら、マユリは」

「マユリも助かる」

「助かる?」

「そう」

 アキラは云う。

「だから一度、山へ帰ろう」

 カオリを見る。

「ここにいれば、あの海一族にも迷惑が掛かる」

 カオリは、閉められた扉を見る。

 そうだ。
 このまま、この海一族の村にいれば、
 トーマにもあらぬ疑いをかけられてしまう。

 カオリは、小さく頷く。

 と、

 ふと、アキラは耳を澄ます。

 鳴き声。

 鳥の鳴き声が聞こえる。

 アキラは窓を開け、外を見る。

 空に、アキラの鳥。

「どうした」

 カオリも窓から顔を出す。

「兄様?」

 アキラは、山を見る。
 山一族の村がある方向。

「あれは!?」
「煙?」

 山から煙が上がっている。

 伝達の煙ではない。

 黒い、煙。

「何だ?」
「兄様、まさか」

 山一族の村が

 燃えている。



NEXT