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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「悟と行子」1

2014年09月05日 | T.B.2002年

 西一族の彼は、

 対立する東一族の村に、人知れず入り込む。

 黒髪の東一族に対して、白色系の髪である西一族。
 彼が、東一族でないことは、一目瞭然だ。

 見つかれば、大騒ぎになり、
 捕まれば、命の保証はない。

 けれども

 彼は、
 敵の一族に入り込み、情報を持ち帰ることが仕事なのだから、
 そう簡単には見つからない自信があった。

 西一族の村で、それだけの訓練を重ねてきたのだ。

 彼は、東一族の裏道を歩く。
 誰にも、会わない。

 あたりを見る。

 西一族とは違う、村。
 家の造りも、生活も、違う。
 雰囲気そのものが、違う。

 穏やかな、東一族の村。

 少し前まで、互いに血が流れていたとは、とても思えない。
 その、
 大きな争いさえなければ
 ほんの些細なことで、もめたりしなければ

 自分のような仕事もなかったのだろう、と。
 きっと、いろんな交流も行われていたのだろう、と、思う。

 ふと、

 話し声がして、彼は茂みに身をひそめる。

 道の向こうから、東一族の者が、ふたり。
 何かを話している。

「宗主様の体調がよくないらしい」

 その内容に、彼は耳を澄ます。

「よくない、て、どれくらいだ?」
「それは、わからない」
「確かに、最近、姿を見かけないな」
「部屋からほとんど出ないって話」
「まだ、お若いのに」
「現宗主様は、生まれつき身体が弱いんだよ」
「西一族に、毒を盛られたって、本当か?」
「それは知らないけれど。西一族ならやりかねないな」
「なんて、危険な一族なんだ」

 ふたりは、そう話しながら、彼が身をひそめる茂みの横を、通り過ぎる。
 やがて、話し声は聞こえなくなる。

 しばらく、彼は動かない。

 彼は、息を吐く。
 首を振る。
 争いさえなければ、なんて、考えてはいけない。

 ここは、敵の一族の地。

 先ほどの話が事実かどうかわからない。
 けれども
 本当ならば、警戒が強くなっているはずだ。

 気を引きしめなければ。
 そう、自分に云い聞かせ、彼は歩き出す。

 長い道を歩き、

 そこで、

 道がなくなる。

 旧びた家にたどり着く。
 彼は、その家に近付く。
 周囲を見る。

 ……誰も、いなさそうだ。

 放棄された家なのだろうか。
 少し、身をひそめるのに使おう、と、彼はその旧びた家の中に入る。

 が、

 部屋の中に入ろうとした彼は、驚き、立ち止まる。

 目を見開く。

 そこに

 ――人が、いる。

「なぜ……」

 彼は、思わず、口を開く。

「なぜ、ここにいるんだ」

 彼の目の前に、

 この、東一族の村に、

 白色系の髪の者がいる。



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東一族の

2014年09月05日 | イラスト





「知られていないひと」

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