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「規子と希と燕」2

2014年10月07日 | T.B.1961年

「それじゃあ、班分けは今言った通りだ」

希の声が広場に響く。

「各自班に分かれて、
 打ち合わせが終わったら狩りに向かう事。
 何度も言うが、無理はせずに、山の奥には行かないように」

その声で広場に集まっていた西一族は
動き始め班ごとに集まり始める。

「ねぇ、希」

広場の中心にいた希に規子が声をかける。

「私はどの班にも入っていないみたいだけど
 どうしたらいい?」

あぁ、と返事をしかけた所にまた別の声が重なる。

「俺も呼ばれてなかったけど
 兄さん!!」

希の弟である燕が駆け寄ってくる。
寝坊かと思ったが、いつの間に来ていたのだろう、と
規子は燕の要領のよさにため息をつく。

ちょうどいい、と希は二人を見返す。

「呼びに行く手間が省けたな。
 規子も燕も俺と同じ班だ」

規子と燕は顔を見合わせる。

「それは、いいけれど」
「俺たち集まってもいいの?」

燕は希に聞き返す。

「俺たち分散していた方がいいんじゃないか?」

規子もその言葉に頷く。

東一族との争いのために大人たちは動けない。
そのため狩りに行く年齢層が本来よりも下がっている。

まだ幼い子供たちも混ざっている状態で
狩りに慣れている、規子達は
分散してそれぞれの班について主導するやり方を取っていた。

「もう随分山の奥には行っていないから
 大物が降りてきていると思うんだ」

子供を連れた狩りはどうしても行動範囲が制限される。
山の入り口付近にしか行けないせいで
採れる獲物も小さい物に限られている。

「……うぅん。つまり
 俺たちは大物狙いという事?」
「そうだ」
「それならば、私たちが固まっていた方が良いとは思うけど」

意見が固まりかけて、希は満足そうに頷く。

「決まりだ、行こう」

希は2人を先導して行く。
東一族との間で張り詰めた状態が続いている今、
何か1つでも空気を変えることが出来ればいいとは規子も思う。

「ねぇ。規子」

後ろを歩いていた燕が声を掛ける。

「兄さんのことどう思う?」
「………」
先程どこかで聞いたような言葉だと思い、規子は言葉を無くす。
「将来、絶対村をまとめる役職に就くと思うんだ」
「……ええっと。それで」

「そうしたら、さ、
 俺、絶対2人を支えるからさ」

希と燕の兄弟は2人とも揃って、銀髪だ。
銀髪は生粋の西一族の証と言われている。

西一族のなかの西一族。

それが、どういうわけか燕は黒い瞳を持っている。

敵の、東一族の色。

だから、どんなに狩りの腕があろうとも
燕は一定の地位から上に上がれないだろう。
だからいつも彼は一歩引いたところで話をしている。

「ねぇ、希がどうこうじゃなくて
 燕、あなたもっと自分のことを考えなさいよ」

「いやいや、俺はさぁ、結構色々考えてるんだよ」

言わないだけでさ、と燕は言う。

「いつも燕はそうやってはぐらかす」

ほら、希行っちゃうよ、と
規子は歩くスピードを早める。

少し遅れた燕は二人に追いつこうとして
あれ、と首をひねる

「っていうか、
 今話をはぐらかしたの、規子の方だよね」


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