彼は、庭を歩く。
庭は、きれいに手入れされており、この時期の花が咲いている。
広い屋敷の敷地内で、彼は誰にも会わない。
どれほど歩いたか。
彼は、少し不安になる。
目の前に、離れ家が現れたものの、
それは
ずいぶんと旧びたものだった。
離れ家と云っても、彼は、もっと立派なものを想像していた。
仮にも、宗主の屋敷内にあるのだから、宗主の家系の者が住んでいるのではないだろうか。
それが、
こんなに旧びた離れ家で、いいのだろうか。
彼は少し、考える。
考えて、離れ家に近付く。
扉を、叩く。
返事は、ない。
彼は、再度、扉を叩く。
返事は、ない。
彼は息を吐く。
入るしかない。
緊張する。
中にいるのは流行病の者、なのだろうから。
「失礼します」
そう、扉をゆっくり開ける。
中に入る。
「誰か、いますか?」
と
彼は、目を見開く。
――人がいる。
その、中にいた彼女、が、ゆっくりと顔を上げる。
彼を見る。
「……っ!?」
彼は、思わず、後ろへ下がる。
「な、」
まさか……?
その
彼女は、
東一族ではありえない、――白色系の髪。
どう云うことだ?
彼は少し混乱する。
彼女は、東一族の衣装をまとっている。
けれども、東一族ならば、黒髪を有するはず。
なのに
その髪色は、白い。
彼女は坐ったまま、何も云わず、彼を見上げる。
彼と目が合う。
「あ、ああ。……はじめ、まして」
彼は、慌てて声を出す。
自分で、焦っていることが判る。
村の外で、白色系の髪の者を見たことはある。
が
この、東一族の村の中となると、話は別だ。
なぜだ、
なぜだ、と
彼は、自問する。
まさか
西一族を捕らえたのだろうか。
「呼ばれて、来たんだけど……」
彼が云う。
「俺は、医師で、その……、君は?」
彼女は首を振る。
「あ、そうか。急に医師が来て、驚く、よ、ね?」
彼女は、うつむく。
「でも、大丈夫。……大丈夫、だから」
云いながら、彼の言葉は小さくなる。
何が、大丈夫なのか、と。
彼は、自分の荷物の中にある薬を思い出す。
「……大丈夫」
彼は、再度云う。
けれども、それは、自分自身に云ったのかもしれない。
彼は、彼女を見る。
彼女はうつむいたまま。
何も云わない。
彼は、その様子に、息を吐く。
どうしようかと、部屋の隅に荷物を置き、坐る。
ふと、部屋の中を見渡す。
そこで、彼はまた驚く。
彼女に気を取られて気付かなかったが、部屋の中はひどく荒れていた。
ものが落ち、割れ、破片がいたるところに散らばっている。
そんな中に、彼女は坐り込んでいる。
その状況に彼は目を細め、彼女を見る。
彼女自身が、やったのだろうか。と。
NEXT