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「成院と患者」3

2019年05月24日 | T.B.2002年


 彼は、庭を歩く。

 庭は、きれいに手入れされており、この時期の花が咲いている。
 広い屋敷の敷地内で、彼は誰にも会わない。

 どれほど歩いたか。
 彼は、少し不安になる。

 目の前に、離れ家が現れたものの、
 それは
 ずいぶんと旧びたものだった。

 離れ家と云っても、彼は、もっと立派なものを想像していた。
 仮にも、宗主の屋敷内にあるのだから、宗主の家系の者が住んでいるのではないだろうか。
 それが、
 こんなに旧びた離れ家で、いいのだろうか。

 彼は少し、考える。

 考えて、離れ家に近付く。
 扉を、叩く。

 返事は、ない。

 彼は、再度、扉を叩く。

 返事は、ない。

 彼は息を吐く。

 入るしかない。
 緊張する。
 中にいるのは流行病の者、なのだろうから。

「失礼します」

 そう、扉をゆっくり開ける。

 中に入る。

「誰か、いますか?」

 と
 彼は、目を見開く。

 ――人がいる。

 その、中にいた彼女、が、ゆっくりと顔を上げる。
 彼を見る。

「……っ!?」

 彼は、思わず、後ろへ下がる。

「な、」

 まさか……?

 その

 彼女は、

 東一族ではありえない、――白色系の髪。

 どう云うことだ?

 彼は少し混乱する。

 彼女は、東一族の衣装をまとっている。
 けれども、東一族ならば、黒髪を有するはず。
 なのに
 その髪色は、白い。

 彼女は坐ったまま、何も云わず、彼を見上げる。
 彼と目が合う。

「あ、ああ。……はじめ、まして」

 彼は、慌てて声を出す。

 自分で、焦っていることが判る。

 村の外で、白色系の髪の者を見たことはある。
 が
 この、東一族の村の中となると、話は別だ。

 なぜだ、
 なぜだ、と

 彼は、自問する。

 まさか
 西一族を捕らえたのだろうか。

「呼ばれて、来たんだけど……」
 彼が云う。
「俺は、医師で、その……、君は?」
 彼女は首を振る。
「あ、そうか。急に医師が来て、驚く、よ、ね?」
 彼女は、うつむく。
「でも、大丈夫。……大丈夫、だから」
 云いながら、彼の言葉は小さくなる。

 何が、大丈夫なのか、と。

 彼は、自分の荷物の中にある薬を思い出す。

「……大丈夫」

 彼は、再度云う。
 けれども、それは、自分自身に云ったのかもしれない。

 彼は、彼女を見る。
 彼女はうつむいたまま。

 何も云わない。

 彼は、その様子に、息を吐く。
 どうしようかと、部屋の隅に荷物を置き、坐る。

 ふと、部屋の中を見渡す。

 そこで、彼はまた驚く。

 彼女に気を取られて気付かなかったが、部屋の中はひどく荒れていた。
 ものが落ち、割れ、破片がいたるところに散らばっている。

 そんな中に、彼女は坐り込んでいる。

 その状況に彼は目を細め、彼女を見る。

 彼女自身が、やったのだろうか。と。



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