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「高子と彼」11

2019年05月21日 | T.B.2002年

「覚悟は決まったか?」

「覚悟もなにも」

問いかけられて
湶は首をひねる。

「自分から願い出た事ですから」

「今までお前の両親がしてきた、
 南一族の監視とは
 全くの別物だぞ」
「分かっています」
「……お前の実力は分かっている。
 充分役割を、果たしてくれるだろう」

期待している、と
村長は言う。

「諜報の仕事は
 まず簡単な物からこなしてもらう。
 詳しくは、悟から」

「はい」

うん、彼もそうだろうな、と
湶は口に出さず納得する。

表だっては公表されていない、が
恐らくはというメンバーが頭に浮かぶ。
両親も簡単な役目とは言え
諜報員だったのだ。

「病弱な弟を、
 今度はお前が養っていくつもりか?」

諜報員には、その危険な役割と引き換えに
充分な生活の保証がある。
例えば自分が命を落としたとしても、
その後家族が何もせず生きていける程に。

「長い間。
 俺には、自由にさせてもらったし。
 まあ、家族ですから」

「家族、か」

村長は問いかける。

「お前も、良い歳だ。
 そろそろ自分の家庭を持つつもりは無いのか」

うーん、と湶は言う。

「それは、
 体の良い人質を作らないのか?って
 事ですよね??」

少し首を傾げて、
皮肉を込めて
そういうことですよね、と
湶は言う。

他一族に潜入し、
情報を探る事もある諜報員は
反対に村の情報を流すとこも
寝返る事も可能。

だから、必要になる。
諜報員が裏切らないための足かせが。

「他にも、まだ、必要ですか?」

病弱な弟とその娘。
だが、村長はそれでは足りないと思っているのだろうか。

「いいや」

するりとそれを返して
村長は言う。

「帰りを待ってくれる人が居るというのは
 良いことだと言っているだけだ」

もちろん、裏切るつもりなんて無い。
それでも。

これ以上。

巻き込む訳には。

「………起きてる?」

声が聞こえて、
湶は辺りを見回す。

見慣れないベッドに
消毒薬の香り。

そう、諜報先で怪我をして、病院に寄って。

疲れも出たのか
横になったら少し眠っていたようだ。

夢を見ていた。

諜報員になった時の事を。

「おい、目が覚めているなら
 ベッドを移れ。
 もっと寝やすいのがあるぞ」

声の主をよく見る。
医師見習いとして働いている幼なじみ。

「稔、か」
「残念そうに言うな。
 今日は俺が当直なんだよ悪かったな」
「………」
「………」
「………あの」

「高子先生なら、帰ったぞ」

何も知らないはずなのに
見透かしたように稔は言う。

「どんなヘマしたんだ。
 先生があんなへそ曲げるのも珍しい」

「怒っていたのか」
「怒っていたな」

は、と
ため息と共に声が漏れる。

「下手を打ったんだよ」

彼女には知らせるつもりは無かった。
出来れば、
知らないままでいて欲しかった。


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