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オリジナル水辺ノ世界の作品を掲載

「西一族と巧」4

2019年04月05日 | T.B.1996年


「華!」

 巧は、華の姿に気付き、声を掛ける。

 あれから、数週間後。
 狩りの日ではないので、巧は病院へ行くところだった。

 通りがかった市場で、華に会う。

「花好きの、華!」
「何よ、巧!」

 華は振り返り、少し怒っているような
 でも、面白がっているような、表情を見せる。

「久しぶり」
「本当ねぇ」
「狩りの調子は?」
「まあ、……そこそこ?」
「うちもだ」
「これからの季節に期待しましょ」
「……で。今は買い物中?」
「そうよ」
 華が云う。
「巧もお出かけ?」
「病院へ。定期予防接種」
「ああ。私もこの前行ったわ」
「華は、……」

 云いながら、巧は華の目の前を見る。

 花屋。

「やっぱり、華は花」
「好きなんだから、いいでしょ!」

 色とりどりの花が並ぶ。

 雪が溶け、気温が徐々に上がり、山には花が咲きはじめていた。
 当然、花屋も豊富な種類揃えとなってくる。

「切り花?」
「いいえ。育てたいから、苗かな」

 華は一生懸命、花を吟味している。

 巧はその様子を見る。

 しばくして。

 花屋の前を行ったり来たりしていた華が、指を差す。

「これ」

 巧はその先を見る。

「この花にしようかな」
「ふぅん」
「何それ。興味なさそう」
「ないよ」
「ほんっ、とに、巧ったら!」

 巧は笑う。
 訊く。

「どんな花?」

 華は視線を動かさず、答える。

「紅色とか、紫色の花が咲く」
「へえ」
「西にはない花なのよね」
「そうなんだ」
「いったいどうやって西に仕入れたのかしら」

 華は首を傾げる。

「海辺の植物。海一族産よ」
「妙な云い方……」
「買うわ」
「買うんだ」

「おじさん! これちょうだい!」

 はいよ、と店主が出てきて、
 華が指差す苗を、袋に詰める。

 華はお金を差し出す。

「俺も」

 巧が云う。

「これと同じのを」
「同じのでいいのね」

「巧も買うの!?」

 華は目を丸くする。

 店を後にして、華が云う。

「巧も花に興味があるなんて、びっくり」
「いや、ないけど」
「んん?」

 巧は、華に袋を差し出す。

「苗がひとつじゃ淋しいかと思って」
「もしや、……私に?」
「他に誰が花を育てるんだよ」

 華は、巧と袋を交互に見る。

「ほら」
「いいの?」
「いいって」

「じゃあ。……遠慮なく!」

 華は受け取り、袋の苗を覗く。

「頼むよ、その花」
「ありがと巧!」

 華はにこっとする。

「めっちゃうれしい!」




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