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「天院と小夜子」5

2014年08月15日 | T.B.2016年

 彼女が庭に布を広げ、豆を並べている。

 彼は空を見る。
 天気がよい。

 いつも通り、庭で豆をむくのだろう。

 彼は遠目で、彼女を見る。
 まだ、彼女は自分に気付いていない。

 彼女を見たまま、彼は考える。

 おそらく
 この前の誰か、は、自分のことを彼女に云ってしまっただろう。
 もう、自分の名まえも、彼女は知っているはずだ。

 どうしよう。
 ……でも、考えても、仕方ない

 彼は、彼女に近付き、横に坐る。

 彼女は驚く。
 顔を上げる。

「……天院(てんいん)、様?」

 ああ、ほら。

 彼は答えず、息を吐く。

「天院様!」

 天院は、口を開く。
「名まえ、……判ったんだ」

 彼女が云う。
 少し、怒った口調で。

「長いこと、お目にかかってるのに、気付くのが遅すぎました!」
「何を?」
「名まえも知らなかったし!」
「うん」
「使用人のようなもんだって、云ったじゃないですか」
「怒ってる?」
「怒ってる」
「何で?」
「私は、首ですか!」
「首?」

 彼は、首を傾げる。

 自分と彼女が話したから?

 それなら
 彼女に知られてしまった自分は、宗主に怒られるのかな。

 彼女は、豆をむき出す。

「使用人の私が、天院様と普通に話してしまったからですよ」

「……小夜子(さよこ)」

 天院が云う。

「小夜子が思ってるより、高位じゃないよ、俺」
「でも」
 小夜子が云う。
「私なんかに比べたら」

 天院は笑う。
 豆むきを、真似してみる。

 小夜子が云う。

「天院様、違う」
「これ?」
「豆むきには、こつがあるの」
「うん。教えてよ」

 ふたりは、豆をむく。

「……天院様は」

 しばらくして、小夜子が口を開く。

「宗主様の、ご家族様なの?」
「さあ。どうかな」
「宗主様と、どれくらい近い方なの?」
「さあ」
「また……」

 小夜子は、ため息をつく。

「よく考えたら、会ったときから、はぐらかされてる」
 天院が云う。
「たいしたことじゃないし」
「私にとっては、たいしたことです」
「気にしない方がいいよ」
「気にします」
「怒ってる?」

 小夜子は答えない。

 天院は、小夜子の手元を見る。
 もうすぐ、豆むきが終わる。

 天院は顔を上げ、あたりを見る。
 すぐ近くに高木がある。

「ねえ、小夜子」
 天院が声をかける。
「それ終わったら、こっちに来て」

 天院は立ち上がり、少しだけ歩く。

 豆むきを終わらせた小夜子も、立ち上がる。

「天院様」
 小夜子は、天院がいる方向を見る。
「そこに、何があるの」
「上を見て」

 天院が云うと、小夜子は空を見上げる。



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