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「西一族と涼」10

2015年01月23日 | T.B.2019年

「ねえ、涼!」

 集会所から出てきた涼に、紅葉が気付く。
 紅葉は慌てて声をかけ、近付く。

 あたりは、暗くなっている。

「大丈夫だった?」
 涼は、紅葉を見る。
「何が?」

「……ごめん」

 涼は、紅葉の言葉に、首を傾げる。

「狩りでの、こと」
 紅葉が云う。
「もっと、私が、状況を伝えられたらよかったのだろうけど」

 紅葉はうつむく。
「お父さんも、ひどいことばかり云って、ごめんなさい」

 涼は紅葉を見る。

 黒髪の自分とは違う、白色系の髪。
 もちろん
 それが、西一族では、当たり前なのだけど。

「それは、」
 涼が云う。
「紅葉が、父親に大切にされてる証拠だ」

「え?」

 紅葉は、顔を上げる。

 涼は歩き出す。

 慌てて、紅葉は涼の後を追う。

「涼……」
 涼は、歩きながら云う。
「悠也の父親も、同じ」

「う、うん」

 紅葉は云う。

「涼の両親だって、きっと!」
 と、
 そこまで云って、紅葉は涼の髪を見る。

 涼は、振り返らず、歩き続ける。

「……ごめん」

 大切にされているのならば、涼の両親は名乗り出るだろうに。
 こうやって、村長の屋敷で暮らすことも、なかったろうに。

 と

 紅葉は、涼に声をかける。

「家に帰るんじゃないの?」

 涼が歩いている方向は、村長の屋敷とは違う方向だ。
 涼は答えない。
 紅葉は、ただ、涼の後ろを歩く。

 やがて、水辺にたどり着く。

 大きな水辺。

 とても静かだ。
 霧が濃く、向こう岸は見えない。

 この水辺の周囲に、東西南北、それぞれの一族が暮らしている。

 岸近くには、何艘かの船が、浮いている。
 が、誰も、いない。

 涼は、向こう岸を見ている。

「涼?」

 紅葉は、後ろから声をかける。

 涼の見る方向、

 そこには、

 ――東一族の村、が、ある。

「ねえ。……涼、」

 紅葉が呟くように、云う。

「行かないよね? 東になんて」
 紅葉が云う。
「罰は謹慎で、……すむんだよね?」

 涼が振り返り、紅葉を見る。
 けれども、
 その視線は、定まらない。

「俺は」

「……涼、」

「東に行くつもりでいる」

「やめて!」

 紅葉は首を振る。

「心配なの!」
「誰が?」
「私も、……だし。名乗り出なくても、涼の両親だって、きっと……」

「紅葉」

 涼が云う。

「なら、俺の、小さい頃の話をしてあげる」



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