「ねえ、涼!」
集会所から出てきた涼に、紅葉が気付く。
紅葉は慌てて声をかけ、近付く。
あたりは、暗くなっている。
「大丈夫だった?」
涼は、紅葉を見る。
「何が?」
「……ごめん」
涼は、紅葉の言葉に、首を傾げる。
「狩りでの、こと」
紅葉が云う。
「もっと、私が、状況を伝えられたらよかったのだろうけど」
紅葉はうつむく。
「お父さんも、ひどいことばかり云って、ごめんなさい」
涼は紅葉を見る。
黒髪の自分とは違う、白色系の髪。
もちろん
それが、西一族では、当たり前なのだけど。
「それは、」
涼が云う。
「紅葉が、父親に大切にされてる証拠だ」
「え?」
紅葉は、顔を上げる。
涼は歩き出す。
慌てて、紅葉は涼の後を追う。
「涼……」
涼は、歩きながら云う。
「悠也の父親も、同じ」
「う、うん」
紅葉は云う。
「涼の両親だって、きっと!」
と、
そこまで云って、紅葉は涼の髪を見る。
涼は、振り返らず、歩き続ける。
「……ごめん」
大切にされているのならば、涼の両親は名乗り出るだろうに。
こうやって、村長の屋敷で暮らすことも、なかったろうに。
と
紅葉は、涼に声をかける。
「家に帰るんじゃないの?」
涼が歩いている方向は、村長の屋敷とは違う方向だ。
涼は答えない。
紅葉は、ただ、涼の後ろを歩く。
やがて、水辺にたどり着く。
大きな水辺。
とても静かだ。
霧が濃く、向こう岸は見えない。
この水辺の周囲に、東西南北、それぞれの一族が暮らしている。
岸近くには、何艘かの船が、浮いている。
が、誰も、いない。
涼は、向こう岸を見ている。
「涼?」
紅葉は、後ろから声をかける。
涼の見る方向、
そこには、
――東一族の村、が、ある。
「ねえ。……涼、」
紅葉が呟くように、云う。
「行かないよね? 東になんて」
紅葉が云う。
「罰は謹慎で、……すむんだよね?」
涼が振り返り、紅葉を見る。
けれども、
その視線は、定まらない。
「俺は」
「……涼、」
「東に行くつもりでいる」
「やめて!」
紅葉は首を振る。
「心配なの!」
「誰が?」
「私も、……だし。名乗り出なくても、涼の両親だって、きっと……」
「紅葉」
涼が云う。
「なら、俺の、小さい頃の話をしてあげる」
FOR 「(父親と涼)」