「さ。母様のお墓探そうかな」
彼女は空を見る。
彼も、空を見る。
彼女が云う。
「もう少し、ここにいても大丈夫そう」
「手伝おうか」
云うと、彼は立ち上がる。
「手伝ってくれるの?」
「うん」
彼女が訊く。
「あなた、自分のお墓参りはいいの?」
「もう、すませたから」
「じゃあ、一緒に探してもらおうかな」
彼女は、まだ坐ったまま。墓地を見渡す。
広い敷地。
たくさんの墓が並んでいる。
彼女が呟く。
「母様のお墓、どこだろう」
彼が訊く。
「君はお母さんが、亡くなった日のこと、……覚えてる?」
「私、はっきりと覚えてなくて」
「覚えてない?」
「母様が亡くなったあと、私、病気になって、それ以前の記憶が曖昧になっちゃったの」
「病気に?」
「うん」
「それは、大変だったね」
「うん」
「身体は、今は平気なの?」
「平気だよ」
彼女が云う。
「大丈夫じゃないのは、記憶だけ」
彼女は笑う。
苦笑い。
「母様のお墓、父様も覚えていないみたいなの」
「……そう」
「変よね」
「何が?」
「父様が、母様のお墓の場所を覚えてないこと」
「そう?」
「変よ」
彼女が云う。
「だって、父様が、母様を埋めるでしょう」
「……普通はそうだね」
「自分で埋めた場所を忘れる?」
彼が云う。
「宗主だから、自分ではやってない、のかも」
「ああ」
彼女が云う。
「じゃあ、代わりに母様を埋めた人に、訊けばいいのにね」
彼が頷く。
坐ったまま、彼女は彼を見上げる。
「父様も、母様のお墓の場所を知りたがってる」
「…………」
「きっと、お花を供えてあげたいんだと、思う」
「……そう」
彼女が云う。
「母様のお墓を見つけたら、私もお花を飾ってあげたい」
彼は、彼女を見る。
云う。
「きっと、喜ぶよ。君のお母さん」
「うん」
彼女が云う。
「母様、待っているよね」
彼が頷く。
彼女は再度、空を見る。
彼はその様子を見て、少し考える。
訊く。
「君のお母さんの名まえと、亡くなった年は?」
「それは、知っているわ」
彼女が答える。
「見つかるかな?」
「見つかるよ」
坐っている彼女に、彼は手を差し出す。
「見つけてあげる」
彼女は、その手を見る。
そして、再度、彼を見る。
「ありがとう」
彼女はその手を取り、立ち上がる。
歩き出した彼のあとを、歩く。
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