「…………」
マユリは身体を起こす。
「……今、走って行ったのは?」
「海一族だ」
「海一族……」
マユリはあたりを見る。
「何か、おかしな気配が」
「裏一族がいた」
「裏一族?」
「海一族に紛れ込んだ、な」
「海一族が紋章術を?」
「判るか?」
その言葉に、マユリは頷く。
「大きな紋章術が発動した形跡を感じます」
「この紋章術は、おそらく山一族のものだ」
「どう云うことです?」
「山一族に裏一族が紛れ込んでいたと云うことだ」
「まさか」
マユリが云う。
「なら、その山一族と云うのは、」
「すぐに見つかるだろ」
アキラが云う。
「ところで」
「はい」
「身体はどうだ?」
マユリは手を広げて、見る。
自身の身体も見る。
「何とも、なさそう」
マユリはアキラを見る。
「いったい、何が起きたのですか」
「うーん」
アキラは、腕を組む。
「生け贄の必要性がなくなった、か?」
「じゃあ、私とカオリは?」
「山に帰れる」
「そう、……ですか」
その様子に、アキラは首を傾げる。
「うれしくなさそうだな」
「一応、覚悟はしたもので」
「喜べよ」
「じゃあ、喜びます」
息を吐き、マユリが小さな瓶を取り出す。
「何だ?」
「これは、」
マユリは瓶の口を開く。
「知り合いが調合した毒です」
「…………?」
「怖くなったら、これで一気に、と」
「毒で?」
「そう」
「どんな知り合いだ」
「村のはずれで、ひっそりと毒畑を、」
「さっさと棄てろ」
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