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「海一族と山一族」50

2018年06月05日 | T.B.1998年

トーマ達はしばらく港で過ごした後
村の広場へ向かう。

晴れて海は凪いでいる。
よい漁日和だが、
ほとんどの村人は広場に集まっている。

今日はそういう日だ。

村の重役達が集い
その時、を待っている。

「いつだったか、
 トーマが平穏なのはつまらないと言ったよな」

突然、ミナトが呟く。

「いや、言ってない」
「凪いだ海はつまらないとか」
「それは言ったかもしれない」

悪い意味で言ったつもりではないが、
その時も
誰かがケガをしたり、
事件が起こればよいと思っていた訳じゃない。

「……実際、身に染みたよ」

いつもの日常が一番よいと言うことが。

「まあまぁ、そう言うな」

年上のミナトは
いつも少し大人ぶる。

「こういう風に変わっていくなら
 良いんじゃないのか」

人々のざわめきが起こる。

「2人とも、来たわよ」

カンナが静かに、と
2人を制する。

こんな珍しい事は無いと
集まった村人の人垣の間から
トーマもそれを眺める。

使いの鳥を連れた、
数人の山一族。

あの日に起こった出来事について
そして、
これからの事について
話しを進めていくための使いとして。

「あれが、山一族」
「見ろ、本当に鳥を従えているんだな」

海一族の中には
初めて彼らを見るという者も多い。

あれが正装なのだろうか
儀式の場所で見た服装に近いが
皆が同じ様に長い布を羽織っている。

「良く来た、
 山一族の使いの者達よ」

海一族の長がそれを迎え入れる。

「旅の疲れもあるだろう。
 まずはこちらへ」

彼らは長の家へと向かう、
そこで話し合いが行われるのだろう。

その背中をトーマは見る。

長の候補とは言え、
ただそれだけでは話し合いの場には入れない。
良い方向に話しがまとまれば良い、と
祈りながら見送るだけだ。

ふと、1人がこちらに振り返る。

「………?」

羽織の間から見える口元が、動く。

ひさしぶりだな、トーマ、と。

「アキラ!!」

あぁ、とトーマは返事をするように
強く頷く。


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